新型コロナ対策は営業時間短縮より官制値上げで需要抑制を

2021/01/22

■営業時間短縮は密を加速しかねない
■公共交通機関は値上げで人手を減らそう
■通勤定期を使用不可にして払い戻そう
■飲食店は「席料」のカルテルを設定しよう
■飲食店に特別消費税を設定して「益税」にしよう
■対象企業の収入減は税金で補填しよう

(本文)
■営業時間短縮は密を加速しかねない
飲食店の営業時間を短縮して午後8時に閉店させる、電車の終電を早めて人々を早く帰宅させる、といった政策が新型コロナ対策として採用されている。

これらは一見すると人々の外出や接触を減らして新型コロナの感染拡大予防に効果がありそうに見えるが、もしかすると営業時間が短くなった分だけ客が時間的に分散されずに店が混むという可能性も考えられよう。

あるいは、8時過ぎに酔った帰宅者が大勢電車に乗り込んで、酔っ払い同士が大声で会話を続ける、といった事も起こりかねないし、早まった終電にはそれ以降に帰宅するはずだった大勢の客が集中するかも知れない。

「10時閉店なら飲みに行くが、8時閉店なら飲みに行かない」という客は皆無では無かろうが、少ないだろうし、「終電が早まったのなら外出しない」という客はほぼ皆無だろうから、効果より上記の逆効果の方が大きいという事も十分に考えられよう。

外出を減らしたいのであれば、営業時間の短縮より「値上げ」で客を減らす事を考える方が有益なのではなかろうか。

■公共交通機関は値上げで人手を減らそう
公共交通機関が値上げすれば、不要不急の外出を控える人が増えると期待される。公共交通機関の料金は認可制であろうから、「自分だけ値上げをせずに、
ライバルから客を奪って来よう」という事は出来ないはずだ。

病院へ行く人、失業中でハローワークに行く人、等々にとっては高い交通費は痛手となるだろうが、本当に困っている人には生活保護を申請してもらうとして、それ以外の人には我慢してもらうしかなかろう。

筆者は全国民一律10万円配布という政策には基本的に反対だったが、彼らに我慢してもらうための全国民一律10万円配布であったと考えれば、やむを得ないと考え直すかも知れない。

技術的には、自動販売機を作り直す手間が大変そうだし、緊急事態宣言と無関係な区間は値上げしないという事になると、現在の自動販売機のシステムでの対応は難しいかも知れない。地域外から地域外への移動でも、地域を通る場合があるからだが、「乗り降りせずに通過するだけなら値上げの対象外」という事で対処するしかなかろう。

また、「対象地域の県境近くから遠方に移動する場合は近距離切符で県境を越えたのちに長距離切符を買う」と言った事も起きるだろうが、この際であるからそうした問題には目を瞑るしかなさそうだ。

■通勤定期を使用不可にして払い戻そう
在宅勤務を促すためには、通勤客に通勤定期の利用を認めない、という手段も要検討である。もちろん通勤定期代金は日割り計算で払い戻す必要はあろうし、場合によっては違約金的な割増価格での払い戻しが必要になろう。

通勤定期が使えないとなると、毎日の通勤にかかる費用が増加するので、企業にとっては通勤手当抑制のために在宅勤務を推進しようというインセンティブが生じるはずである。

「緊急事態宣言が出ている地域を通る通勤定期」のみ宣言期間中のみ使えない事にする、という事であれば、技術的には難しくなさそうである。

■飲食店は「席料」のカルテルを設定しよう
飲食店の値上げの方が、技術的には遥かに大変そうだ。料金が認可制ではないので、「皆で値上げしよう」というカルテルを結ぶ必要があるわけだが、カルテルには「自分だけ値上げせずに、ライバルの客を奪って来よう」という「カルテル破り」が登場するのが常だからである。

メニューの書き換えだと値上げをしたか否かの確認が容易ではないので、メニューはそのままにして「席料」を徴収する、という方法は一案であろう。「テイクアウトは席料なしだが、通常の飲食は席料10%、酒類を伴う飲食は席料20%」といったカルテルを政府主導で作るのである。

問題は、席料を徴収しない店が出てくる可能性がある事である。あるいは、席料は徴収するが、その分だけメニューを値下げをする飲食店が出てくる可能性がある事である。テイクアウトに関しては、席料を徴収しないので、値下げによって店の収入が減ってしまいかねないが、それでもライバルから客が奪える魅力は否定できない。

実質的なカルテル破りであるから、官制カルテルの効果が薄れてしまう可能性があるため、実名を公表する等の対策が必要になるかも知れない。

もっとも、実名を公表することで店の評判が落ちるとは限らず、「リストにある店は安いから、そこへ行こう」という客が増えてしまうというリスクもあるので、そのあたりは慎重な検討が必要であろうが。

■飲食店に特別消費税を設定して「益税」にしよう
カルテルよりも強力なのは、特別消費税であろう。税法を改正して「緊急事態宣言が出ている間は、消費税率をテイクアウトは0%、通常の飲食は20%、酒類を伴う飲食は30%」とするのである。消費税方式であれば、消費税を徴収しないという選択肢は防げるはずだ。

ただし、増税して財政を再建しようという事ではなく、飲食店に出来るだけ迷惑をかけずに客数を減らそうという事であるから、飲食店は客から預かった消費税分を納税することなく自分の収入にする事を認めよう。

消費税方式であっても、メニューの値段を下げてしまうというカルテル破りは防げない。その点は残念ながら上記と同様であり、公共交通機関ほど完全なシステムとはならないだろうが、それでも一定の効果は見込まれよう。

■対象企業の収入減は税金で補填しよう
単なる休業要請等と比較すれば、交通機関や飲食店の収入の減少幅は少ないかも知れないが、政府が要請したことで値上げして客数が減って収入が減る事業者が出てくるとすれば、その収入の減少分は政府が補填する必要があろう。

政府や自治体はスズメの涙ほどの協力金を支払う心づもりかも知れないが、そこは国民全体のために犠牲になってもらうのであるから、国民全体から集めた税金で手厚く補償すべきである。そのための増税であれば、筆者は喜んで応じるつもりである。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。

1月22日レポートより転載

TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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