地銀を苦しめているのはゼロ成長とゼロ金利

2019/11/07

(要旨)

■ゼロ成長だと地銀の融資は減少
■融資残高維持のための低金利競争が痛手
■融資残高維持のため、リスクをとる場合も
■ゼロ金利は預金部門を無用に
■マイナス金利の痛手は対日銀に非ず
■地銀の苦境は当分続くかも

(本文)
地銀が苦悩している。主因はゼロ成長とゼロ金利である。メガバンクも事情は似ているが、海外部門等で稼げる分だけ地銀と比べれば少し楽だ、という事であろう。

■ゼロ成長だと地銀の融資は減少
ゼロ成長ということは、マクロ的には去年と同じ経済規模が今年も続く、という事である。自動車会社は去年と同じ台数の車を作り、去年と同じ売り上げとコストと利益と配当を今年も計上するのであろう。

しかし、銀行にとってはゼロ成長は前年並みを意味するものではない。自動車会社等が利益のうちで配当しなかった分を銀行借入の返済に用いるため、銀行の貸出残高はマクロ経済がゼロ成長だと減少してしまうのである。

自動車会社は設備投資をするが、ゼロ成長下の設備投資は能力増強投資ではなく、維持更新投資であるから、設備投資資金は減価償却で賄われてしまい、銀行からの借入には繋がらないのである。

■融資残高維持のための低金利競争が痛手
銀行は、融資残高を維持するために、ライバルから顧客を奪おうとして、ライバルより低い金利を提示するかもしれない。しかし、ライバルも対抗して金利を引き下げるだろうから、その試みは成功しないだろう。

銀行にとって、現在1%程度である貸出金利を0.1%引き下げる事は、非常に大きな事である。しかし、借り手にとっては、銀行借入のコストは数あるコストの一部であるから、「借入金利が0.1%下がったから設備投資をしよう」などとは考えない。つまり、価格が低下しても全体の需要が増えないのである。

銀行同士の金利引き下げ競争が、ライバル業界から新たな顧客を呼び込むなら良いが、それも期待出来ない。牛丼チェーンの安売り競争ならば、ラーメン業界から顧客が流れて来る事も期待できるが、銀行の場合はそうした事が期待できないからである。

したがって、銀行がお互いに金利引き下げ競争をすることで、互いに疲弊して行くだけに終わるのである。「金利引き下げ競争をやめよう」という相談が出来れば良いのだが、それは独占禁止法が許してくれないだろう。

■融資残高維持のため、リスクをとるのは更に危険
低金利競争で疲弊する事も問題だが、さらに深刻なのは、優良企業に対する金利引き下げ競争が成功しないと見ると、従来ならば融資しなかったような信用力の低い貸出先にも融資をするようになる可能性である。

金利引き下げ競争で失うのは金利のみだが、信用力の低い借り手に対する融資は、元本を失いかねないからである。

特に、長期間の好景気が続き、倒産件数が低位安定している時には、リスクに対する警戒心が緩む可能性があるので、要注意である。景気が後退しはじめて焦げ付きが増え始めると、銀行が一気に信用力の低い融資を回収しはじめて倒産が激増する、といった事にもなりかねないからである。

■ゼロ金利は預金部門を無用に
ゼロ成長と並んで地銀を苦しめているのは、ゼロ金利である。銀行の決算を分析する場合、預金部門と貸出部門に分けて考えると分かりやすい。預金部門が集めた資金を経理部に市場金利で貸し出し、貸出部門が必要資金を経理部から市場金利で借り入れる、という仮定で各部門の収益を計算するのである。

そうなると、預金部門は悲惨である。コストをかけて集めた金を経理部が無料で(正確にはマイナス金利で)借りて行く事になるからだ。

「そんな事ならば、預金部門を解散してしまえば良い」とも思うのだが、そうも行かないのだ。預金部門が無いと、貸出先が不便に感じるであろうし、何より貸出先にどのような入金があるのかチェック出来なくなってしまう。「最近、預金への入金が減っていますが、売上が落ちてませんか?」といった事が聞けるのは、取引先の預金口座があるからなのである。

今一つには、将来高金利時代が来た時には、預金部門が収益源となるからだ。預金金利は市場金利に比べて変動幅が小さいので、市場金利が高騰しても預金金利は少ししか上昇せず、大きな利益を生むのだ。

■マイナス金利の痛手は対日銀に非ず
マイナス金利と聞くと、「日銀に金利を払う分だけ銀行の決算が悪化する」と考える読者もいるだろうが、そうではない。じつは、民間銀行が日銀に支払っているマイナス金利は僅かな金額なのだ。

問題なのは、貸出部門が「経理部からマイナス金利で借金できるなら、その分だけ貸出金利を下げてライバルから顧客を奪ってこよう」と考えるので、貸出金利引き下げ競争が激化してしまうことである。

その結果、貸出部門の利鞘はゼロ金利時代と同じ水準のままとなり、預金部門の逆鞘が拡大するので、銀行全体としての収益が悪化するのである。つまり、日銀に預けている部分のみならず、貸出全体の利鞘が根こそぎ悪化するのである。

■地銀の苦境は当分続くかも
地銀の方には申し上げにくいが、ゼロ成長とゼロ金利は当分の間続き、地銀を苦しめ続ける可能性が高い。そうしている間に、フィンテック等々の発達により他業態からのライバルが出現する可能性も高い。少し長い目で見れば、人口減少や預金の都会への流出(地方の高齢者が他界すると、都会の子供に遺産が相続される)等も地銀の経営にはマイナスであろう。

地銀によっても苦しさは異なるであろうが、苦しい所は何らかの大胆な対策が必要なのかも知れない。合併による再編なのか大胆なリストラなのか思い切った省力化投資なのか、いろいろな選択肢を検討してみる必要があるのかも知れない。

(11月5日発行レポートから転載)

久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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