株主第一主義の見直しはマクロ経済にプラス

2019/08/23

■米国経済界が方針を転換
■日本企業の方針転換を期待
■従業員重視は景気に優しい
■長期的取引は双方にメリットあり

(本文)
■米国経済界が方針を転換
米国の主要企業の経営者が所属する経済団体であるビジネス・ラウンドテーブルは、株主第一主義を見直すと宣言した。今後は従業員等々のステークホルダーを幅広く重視していく、という事のようである。

経済は冷たい心と暖かい心で動いていると言われているが、株主利益の過度な追求が貧富の格差を拡大し、国民経済を疲弊させている事に対して米国企業が暖かい心で反省した、ということであろうか。

米国企業の本気度については、筆者は若干懐疑的である。結局株主総会で経営者が選ばれる必要があるため、株主利益を重視せざるを得ないからである。

したがって、ある程度は従業員等々にも配慮するのであろうが、その本質は世論の批判をかわし、政府による規制強化の動きを鈍らせるためのポーズに過ぎない、という可能性もあろう。今後の推移が注目される所である。

■日本企業の方針転換を期待
一方で、日本企業に対しては、比較的大幅な方向転換を期待している。第一に、多様なステークホルダーに配慮するというのはバブル崩壊以前には日本的経営がまさに特徴としていた事だからである。

バブル崩壊後の長期低迷期に、「日本的なやり方をしているからダメなんだ。米国的なやり方であるグローバル・スタンダードを真似なければ」と言われて、「そんなものかな」と思ってやってみた、というのが今の経営者だとするならば、元に戻るのは比較的容易な事であろう。

日本のウエットな文化も日本的経営への回帰にはプラスであろう。特に、「あの会社は冷たい」という悪評が立つことを企業が恐れる、という点には注目したい。

米国では、もともと企業経営はドライなものであると人々が思っているので、「あの会社は冷たい」といった批判や悪評は生じないが、日本ではそうした悪評が立ちやすい。

「皆で渡れば怖くない」ので皆でドライな経営に転換してみたが、それが(たとえポーズだけだとしても)本家の米国で否定されたとなると、やはりドライな経営は批判の対象となり、悪評が立つ恐れが高まるはずである。

悪評が立つと、学生の募集が難しくなったり、下請け企業が離反したり、メインバンクとして頼ってくれる借り手が減ったりしかねないので、日本企業の経営者はウエットな経営に戻るインセンティブを持つと期待される。

■従業員重視は景気に優しい
「会社は従業員の共同体だから、儲かったら給料を増やす」という文化の方が、「会社は株主が金儲けのために作った道具だから、儲かったら配当する」という文化より、マクロ経済には優しい。

労働者は、給料が増えた分の多くを消費に回すであろうから、景気にはプラスに働く。一方で、株主は受取配当金が増えても他の株を買う等に使うだけで、消費等はそれほど増やさないであろうから、会社が儲かってもそれが新たな需要に繋がらないのである。

雇用を守る事が経営者の最大の使命だとすれば、不況期にも雇用が守られるので、「失業者が所得を失って消費出来なくなり、個人消費が落ち込む」という事が起きにくくなる。

しかしバブル崩壊後の長期低迷期、企業は正社員を減らして非正規労働者を増やしてきた。これが不況期には「派遣切り」などをもたらし、個人消費を落ち込ませて不況を深刻化させる要因となったのである。

そうした事が起きにくくなるとすれば、労働者の観点からも景気の観点からも大歓迎である。株主としても、労働者に優しい会社という評判によって学生の採用等が行いやすくなるとすれば、メリットは小さくなかろう。

■長期的取引は双方にメリットあり
大企業が下請け企業に安定的に発注するという長期的な関係は、下請け企業が安心して設備投資を行えるので、景気にも経済成長にも良い。親会社にとっても、毎回発注先を変える場合と比較すればメリットは多い。

相手の技術力等が知れているし、細部の打ち合わせも「前回どおり」で済む。下請けが設備投資をすることで手作業よりも良い部品を安く納入してくれるのであれば、それはまさに親会社のメリットである。

メインバンクが不況期に一時的に苦境に陥った借り手を支援する(融資を回収せずに立ち直るのを見守る等)ことは、景気に好影響である。不況期に銀行が借り手を清算する経済だと、不況が一気に深刻化しかねないからである。

銀行にとっても、借り手企業を清算してしまうと借り手企業の設備が二足三文でスクラップ業者に買いたたかれたりしかねないので、借り手を生かしておいて減価償却分のキャッシュフローを一部でも回収した方が得かもしれない。

なにより「あの銀行は借り手に優しい」という評判が立つのと「あの銀行は冷たい」という評判が立つのでは、メインバンクとして頼りにしてくれる借り手の数が違ってくるはずだ。

このように、下請けや借り手との長期的な関係を構築・維持することは、景気にプラスである上に、ウインーウインの関係である。こうした「日本的経営」が今回の米国の変化から日本で復活するのであれば、これは実に望ましいことだと言えよう。

(8月22日発行レポートから転載)

久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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