レゾナックとエーザイをどう比較するか
・レゾナックは半導体材料メーカーへ大きく舵を切っている。エーザイは認知症の治療薬で第2のステージに入っている。企業比較というのは、通常同じセクター(業種)の中で比べる。類似業種の方が比較しやすいので、その方が特徴をつかみやすい。
・一方で、企業の価値創造力を評価する時には、セクターを超えてみる必要がある。レゾナックとエーザイを例に、こんなに違う会社をどのように比べるのかを考えてみよう。まず財務指標をみる。
・エーザイは時価総額1.21兆円で、直近の株価でみると、PBR 1.39倍、ROE 4.9%、PER 28.2倍である。レゾナックHDは時価総額5880億円、PBR 0.90倍、ROE 4.1%、PER 22.1倍である。両社ともROEが低い。PERはそれなりに評価されているが、PBRはさほどでもない。
・現状では、資本収益性は低いものの、将来の成長性には期待を集めている。しかし、企業のもつ潜在力はバランスシートを通して、十分反映されていない。あるべき姿としては、ROE 15%×PER 20倍=PBR 3.0倍がほしいところである。そうなれば株価は1万円となろう。その方向に進むか。ここが企業価値評価のカギを握る。
・企業価値とは、将来収益の現在価値である。とすれば、今後5年、10年の業績予想をして、それをDCF法で現在価値に換算する、というのが今の財務モデルの基本である。医薬品や半導体材料のアナリストなら、将来予測ができるかもしれないが、その予測の精度となるとなかなか難しい。
・経営者はどうか。将来は不確実であるが、それでも企業の価値を増大させるために勝負する。この勝負する姿勢を、投資家として評価していく。そのための評価のフレームワークを自分なりに固めておきたい。そうすると、どんな会社をみても、同じようにすぐ比較できるようになる。
・企業の価値創造とはなにか。割り切っていえば、それは中長期の金儲けである。価値は社会的価値と経済的価値が一体となったものであるから、短期ではなく、中長期の収益性の追求である、とまずは明確にしておきたい。
・この価値創造の仕組みがビジネスモデル(BM)である。今のBMをBM1として、将来のこうありたいというBMをBM2とする。このBM2を、会社として描けているか。描いたとして、それを実現するための手立てが分かっているか。この手立てを戦略という。
・BM2を実現するには、今の会社に足らないものがある。それを取り揃えていく戦略(方策)を立てて、順番にスピーディに実行に移していく。
・BM2を、筆者は投資家として、4つの視点から評価している。第1は経営力である。経営トップをはじめとする経営陣の話を聞いて、企業の将来の姿は定まっているか。その構想と実際の計画を知りたい。経営者はそれを実現する経営力を有しているか。ここを感じ取りたい。
・第2は、成長力を評価する。事業を成長させるには、何らかのイノベーション(仕組み革新)が不可欠である。他社と似たことを後追いでやって勝てるはずがない。独自の強みを作るべく、新しい取り組みを実行しているはずである。ここの成否を見極めたい。
・第3は、リスクマネジメントである。チャンスに向けて、リスクをとる必要がある。リスクをとらなければ、リターンはない。このリスクをいかにコントロールするか。リスクをとりすぎては、取り返しのつかない墓穴を掘りかねない。突然大損することをいかに避けるか。想定外のことが起きても、それは考慮の対象であったという準備がほしい。
・第4は、企業のサステナビリティに関するESGの評価である。わが社の企業価値創造に資すガバナンス、働き方、環境対応を整えて、それを強みにしていく。
・では、エーザイはどうか。内藤専務がCOO兼CGO(チーフグロースオフィサー)として、今後の成長戦略をリードしていく。次期後継者として実績を積み上げられるか。
・世界初の早期アルツハイマー病治療薬「レケンビ」(一般名レカネマブ)は、第12回技術経営・イノベーション大賞において、「内閣総理大臣賞」を受賞した。長年の挑戦が実を結び、成長拡大期に入ろうとしている。
・しかし、製薬企業としてのR&Dは続く。需要開拓に向けた投資も継続しよう。①企業の構造改革、②創薬R&D、③新領域R&D、④医療をこえたエコシステム創りに邁進しようとしている。4つの評価軸からみると、12点満点中11点とAクラスに位置しよう。
・レゾナックはどうか。世界トップクラスの半導体材メーカーとして、AI向け半導体で世界をリードしている。EV用でも独自性を発揮している。半導体の成長は十分見込めるが、米中摩擦やトランプ関税の影響などもあり、新領域の市場開拓はやや先ずれしている。
・事業ポートフォリオの再構築として、石油化学事業のパーシャルスピンオフも実行準備に入っている、高橋CEO以下の経営陣は、一気呵成に経営革新を進めている。社内の人材はついていけるか。この企業文化の改革に高橋社長は最も力を入れており、毎年きめ細やかな社内コミュニケーション、エンゲージメントに手を打って、全社を巻き込んでいる。
・高橋社長は株主総会で、株価1万円、時価総額2兆円を目指すとコミットしている。その実行力は心強い。4つの評価軸からみると、12点満点中10点とAクラスと位置付けられる。
・エーザイは、認知症薬の需要開拓とエコシステム作りでもう一段の努力が求められる。レゾナックは、企業の経営革新という点でガバナンスの定着と向上に期待したい。2030年に向けて、2社とも保有を継続したい。
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