スパークスのまいこばなしIFIS出張版 第5号 「仮想現実の世界にようこそ~VR時代がやってくる~」
VR時代の到来!?
映画マトリックスの世界がいよいよ自分たちでも体験できる時代がやってきます。米国VALVE社と台湾HTC社の共同開発の「HCT VIVE」やFacebookの「Oculas Rift」が発売されたのに続き、今年後半にはソニーから「Playstation VR」の発売が予定されており、大手企業から続々とVR(Virtual reality 仮想現実)が体験できる製品が発売されます。
VRは、人間の感覚器官に働きかけ、現実ではないが実質的に現実の環境を人工的に作り出す技術の総称で、簡単にいえば仮想空間上に実在感を構築する技術です。似たような技術でAR(Augmented Reality 拡張現実)やMR(Mixed Reality 複合現実)などがあります。ARは現実空間の物体などに情報を重ねることで、新たな認識を与える技術で、リアリティを追求する技術でありません。MRは現実空間の物体に仮想空間を混合した上でリアリティ(実在感)を構築する技術です。
VRを体験するにはスマホ、高性能PC、ゲーム機などに加え、専用のVRヘッドマウントディスプレイやVRグローブなどが必要になります。
高まるVRへの期待
VR製品は1968年に開発され、1990年代に一時ブームになったものの大きな広がりとはなりませんでした。しかし昨年末から、にわかにVRの本格的な普及が期待されるようになった背景は、①製品(ハード)の性能向上、②キーデバイスの部材コストの低下による製品価格の低下、③コンテンツの開発環境の整備、④ハード、コンテンツ両面での大手企業の参入、⑤異業種の参入による用途の広がり、などがあるためです。ゲームなどのエンタティメント製品の普及には、製品性能や価格設定だけでなくそれを遊ぶためのコンテンツの充実は不可欠です。今回のVR製品に対しゲーム業界だけでなく、映像や音楽などを手掛ける他のエンタティメント企業が参入に意欲を示していることやVRの延長にあるARやMRを意識して教育や通信などの幅広い分野の企業がVR活用に動いていることで市場がより大きく広がると考えられています。
発売当初はゲームがVR市場の立ち上がりを牽引すると見られますが、その後は様々な分野でVRが利用されるようになると思います。そこでVRが利用される分野について次に考えてみます。VRの利用が有望な分野としてエンタティメント、設計・製造、教育、医療、マーケティング、通信などが考えられます。
VRが利用される分野
■エンタティメント
普及期を牽引する分野です。VRを使ったゲームは今までの2次元でのゲームに比べて、より現実感があり、没入感が大きくなるため、自分がゲームの主人公になり戦闘機を操縦したり、武器を持って戦っているような感じが得られます。またアニメや映画の主人公とリアルに遊んでいるような感覚や、コンサート会場の最前列や歌手の側で視聴しているような感じも得られるため、ゲームだけでなく映画やライブイベント、遊園地のアトラクションなど幅広いエンタティメント分野での利用が期待できます。
■設計・製造
建築デザインのプレゼンテーションや視環境の評価などに使われているほか、自動車の安全性・快適性を評価に使えるようにシミュレートするための研究等も進んでいるようです。
■教育
トレーニングはVRの重要な用途になると考えられます。医師の手術や危険な場所での作業など、経験がものいう場面でのシミュレーションを始め、あらゆる分野のトレーニングに利用できる可能性があります。また学校でのバーチャル郊外学習などにも応用できます。
■医療
医師がコントロールした環境下で患者にVRを装着させ擬似体験をさせながら医師が感情の向き合い方を指導することで、社会不安や高所恐怖症、PTSDなどの心理療法にも有効だと思います。
■マーケティングツール
ECで衣料品を買う際のバーチャル試着、マンションの完成前のバーチャル内覧会など実際の現場に行かなくてもリアルの情報が得られるようになるため、ECなどのマーケティングツールとして利用が増加することが予想されます。
■通信
VR技術とテレイマージョンを結合させることにより、遠隔地での家族との会話や海外との電話会議なども、実際に同じ空間にいるかのような感覚を得ることができようになり、コミュニケーションがより進むようになるため、注目されます。
VRの今後の市場拡大
VRの市場規模に関して英国Digi-capitalなど多くの機関が市場予測を出しています。各社の定義が異なるため単純比較することは難しいものの、ソフトを含めた市場は2020年に300億ドル程度になると見られます。ただし、市場規模の予想レンジは100億ドル~800億ドルと幅があります。これはVR製品の価格低下の前提やエンタティメント業界以外での用途拡大のスピード等の違いが要因ですが、いずれにせよ、ここ数年で大きな市場が立ち上がる確度は高いとみられます。同時に最近の市場予測をみるVRより、SRの方が最終的な市場は大きくなると見方が増えています。
VRの副作用
最後にVR市場の拡大を阻害するものとしてVR酔いとVR依存症が懸念されます。VR酔いは現実には自分は動いていないのに、VRの中では移動しているため、それが体験者にとっては不自然な視覚誘導性自己運動感覚(ベクション)を引き起こし、酔いを引き起こします。特にゲームなどは子供たちも遊ぶためVR酔いが問題視されると市場が想定ほど拡大しない可能性があります。もうひとつはVR依存症の問題です。ゲーム依存症、スマホ依存症などが過去社会問題化しましたが、VRはより没入感が深いため依存症になりやすくなる可能性は否定できません。ゲームの主人公が家で「おかえりなさい」と出迎えてくれたら、現実と仮想の区別がつかなくなり、現実社会に復帰できない人が出てくるかもしれません。
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