銅金比率は株式市場の更なる上昇を示唆するか
銅金比率は株式市場の更なる上昇を示唆するか
1.銅金比率の上昇は景気回復を示唆
2.銅金比率と米長期金利との相関性はやや薄れる
3.金融緩和と景気回復が見込まれ、リスク資産に好環境が続く
1.銅金比率の上昇は景気回復を示唆
■世界の景況感を測る物差しとして注目される「銅金比率」が、11月後半から足元にかけて急上昇しています。
■銅金比率は、銅と金という2つの金属の異なる特徴に着目した指標です。産業用途で幅広く使われる銅は景気回復時に買われ、価格が上昇しやすい一方、安全資産とされる金は景気の低迷時に買われやすい傾向があります。この2つを組み合わせた指数(銅価格/金価格)は上昇すると景気の回復、低下すると景気の減速を表すとされます。
■2020年の銅金比率の動きをみると、2019年末に4.0倍台だった銅金比率は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、急低下しました。世界各地で都市封鎖や外出禁止が実施され経済活動が急減速すると、銅金比率は一段と下げ足を速め、3月下旬には2.9倍台まで下落しました。春以降は銅価格と連動性の高い中国経済がいち早く回復したことを背景に、銅金比率は持ち直し、3倍台前半で夏場までもみ合いました。9月以降は3.5倍台で推移していましたが、11月後半から急上昇しました。足元の銅金比率は4.2倍程度と急速に持ち直し、2019年末を上回る水準に回復しています。
■銅金比率の急上昇は、銅価格の上昇と金価格の下落が同時に発生したためです。12月10日の銅価格は1トン7,860ドルと2013年以来の高値を付けました。中国経済の回復に加え、新型コロナウイルスワクチンの早期普及で経済が正常化し、需要が回復するとの期待が強まっていることが背景です。
■一方、金価格は11月30日、1トロイオンス1,776ドルと7月上旬以来約5カ月ぶりの安値を付けました。新型コロナウイルスのワクチン開発を受けて、経済活動正常化への期待が高まり、安全資産の金には売りが強まりました。
■銅金比率とグローバルの購買担当者景気指数(PMI)総合を合わせてみると、概ね連動する動きがみられます。足元の銅金比率の急上昇は、2021年のグローバルな景気回復を示唆しているといえます。
2.銅金比率と米長期金利との相関性はやや薄れる
■景気に敏感に反応する銅金比率は、米長期金利との連動性が高いとされます。実際、銅金比率の急上昇に伴い、米国の長期金利も上昇しています。9月に0.6%台で推移していた10年国債利回りは11月以降0.9%近辺に水準を切り上げています。
■ただし、今局面では銅金比率と米長期金利の相関性はやや薄れています。新型コロナウイルスの感染が広がる前の1月末の1.5%と比べると、足元の0.9%近辺の推移は歴史的には低水準です。この背景には、コロナ感染で落ち込んだ経済を下支えする目的で米連邦準備制度理事会(FRB)がゼロ金利政策を復活させたことに加え、FRBが声明で長期にわたりゼロ金利政策を維持する姿勢を明らかにしていることがあります。
■ここで、米国の期待インフレ率をみると、長期金利同様に上昇しています。物価連動国債と利付国債から計算されるブレーク・イーブン・インフレ率(10年)は、1.9%程度と2019年5月以来の水準へ戻しました。ただ、依然として物価目標の2%を下回っており、歴史的には低位にあります。期待インフレ率と連動性の高い銅金比率との関係からすると、銅金比率の水準が過去対比で高くないことから、米国の期待インフレ率が一段と上昇する余地は大きくないと思われます。
■景気が回復しても期待インフレ率が大きく上昇しなければ、主要国の中央銀行は大規模な金融緩和政策を継続することが可能だと考えられます。
■主要国の中央銀行は、ワクチン開発進展の報道を受けても、需給ギャップの大きさやワクチンを巡る不透明感などを意識し、現行の超緩和政策を続ける姿勢を崩していません。こうした中銀のスタンスを反映し、足元の欧米の実質長期金利(名目金利ー期待インフレ率)はマイナス圏で弱含みの動きとなっています。
■今後も主要国の実質金利は低位で安定して推移することが見込まれるため、投資家のリスク資産への投資意欲は継続するとみられます。
3.金融緩和と景気回復が見込まれ、リスク資産に好環境が続く
■金融市場では11月以降、米大統領選挙の不透明感が後退したことに加え、新型コロナウイルスのワクチン開発が進み、経済正常化への道筋が見えてきたことから、株式をはじめとするリスク資産が大幅に上昇しました。MSCIの世界株価指数の上昇率は11月に12%の高い伸びとなり、さらに12月も2%高となっています(12月11日時点)。
■2021年を展望すると、世界経済は低インフレ・低金利の下、財政政策のサポートとワクチン実用化によって正常化へ向かい、潜在成長率を上回る成長を示す可能性が高いと思われます。長期金利の上昇が緩やかに留まり、世界経済が回復に向かうとすると、リスク資産には追い風となりそうです。投資家のリスク選好姿勢により、コロナ禍で積み上がったキャッシュ(それに近いMMFや預金)から、米国を中心とする先進国株式や社債、さらには新興国債券、株式などに、資金シフトの範囲が広がると期待されます。
■リスク要因として、景気回復が本格化した場合、需給ギャップが想定以上に縮小し、インフレ懸念に関する議論が活発化することも考えられます。銅金比率が主要国の期待インフレ率2%超えを明確に示唆するような水準に上昇するような場合は、金融政策の転換点の先行指標として注目する必要がありそうです。
(2020年12月15日)
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