吉川レポート:分岐点か踊り場か
吉川レポート:分岐点か踊り場か
1.2020年を下方修正・21年を上方修正
2.通常とは異なる景気・投資サイクル
3.局面転換につながる3つの注目点
1.2020年を下方修正・21年を上方修正
■世界経済の見通しを、足元の2020年については先月の▲3.0%から0.2%ポイント下方修正して▲3.2%とする一方、来年2021年は5.6%から5.7%に上方修正しました。2020年の下方修正は、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中南米のほか一部の新興国の見通し引き下げによるものです。一方、2021年についてはドイツの財政刺激策拡大によってユーロ圏の見通しが改善(2020年は▲9.0%で変わらないが、2021年について5.0%から6.5%に上方修正)したことが、上方修正につながりました。
■コロナウイルス感染再拡大の影響、特に、新興国の先行きが不透明要因(ダウンサイドリスク)となる一方、先進国の財政・金融政策がアップサイド要因となっていることが素直に反映された形といえます。大局観としては、①新型コロナウイルスについては、ワクチンが広く普及するには少なくとも1-2年の時間を要する、②米日欧など先進国では移動制限緩和によって感染再拡大が起こるが、3-4月のような全面的な都市封鎖に戻るのではなく、地域ごとに経済再開のペースの加速・減速を繰り返しながら趨勢としては回復傾向が続いていく、との想定を維持しています。
2.通常とは異なる景気・投資サイクル
■主要地域ごとにみると、成長率の回復については中国、米国が先行し、日欧、新興国が続く形となっています。一方、インフレ見通しは総じて下振れしています。景気や投資のサイクルの視点から見ると、現在の状況は移動制限の緩和に伴って経済活動は回復に向かうものの、需給ギャップの拡大を背景にインフレ率に下押し圧力がかかるため、財政・金融面からのサポートが続いています。低金利の下で株価などがボトムアウトする「景気回復期」の局面といえます。
■設備投資のストック循環や金融機関のバランスシート調整などによる通常の景気循環では、過剰ストックの処理が進むにつれ経済活動の勢いが増し、株価上昇と共に、金利も底打ちに向かう景気拡大期に移行します。
■しかし、今回はコロナウイルス感染という外部的ショックが経済を左右しており、移動制限の緩和による成長加速と感染再拡大による鈍化を何回か繰り返すとみられます。回復期から拡大期へ円滑に移行するのではなく、回復が進んだと思うと少し後戻りするというような形で、サイクル的には前進と後退を繰り返しながら徐々に前に進んでいくと思われます。金融市場では主要国の中央銀行の緩和が長引く中、景気に関して楽観する局面と悲観する局面が繰り返すパターンになるとみられます。
3. 局面転換につながる3つの注目点
■米短期金融市場でのドルの調達コストはほぼ正常化し、ドルの実効レートも対先進国通貨ではコロナ前のレンジにほぼ戻っていることを考えると、米連邦準備制度理事会(FRB)など主要中銀の金融緩和効果はすでに十分に発現してきています。株価の更なる上昇という点では名目成長率と一株当たり利益の見通しが改善に向かうことが必要な局面になってきました。局面転換を考える上では次の3点に注目しています。
■第1はウイルス感染再拡大に対する先進国の対応です。局所的な抑制措置を実施しながら経済活動の再開を継続できるか、治療薬、ワクチンなどのゲームチェンジャーとなる技術開発の成否が焦点です。
■第2は財政政策です。特に伝統的に緊縮的な財政政策を継続してきたユーロ圏が、加盟国共通財政という性格を持つ復興基金の具体化で合意した場合、景気見通しや金融市場に対して、追加的なプラス要因となるでしょう。
■第3は新興国の動向です。中国に続き、アジア諸国の一部に回復が期待されますが、全体としては感染拡大継続などにより景気の先行き不透明感が強い状況です。新興国株式については資金流出傾向が続いています。新興国における新規感染者数の減少や株式への資金フローの安定化が確認できれば、それは世界経済のダウンサイドリスクの低下を意味します。
■政策効果や企業・消費者のウィズコロナへの適応、今すぐではないが、新興国の下げ止まりの可能性を展望しつつ、経済・金融市場は趨勢としては回復に向かっており、現在は次の局面に向けての踊り場とみています。ダウンサイドリスクとして、想定を上回る感染再拡大に加え、商品の供給不安、米中関係などの政治的不透明感の高まりに注意したいと考えます。
(吉川チーフマクロストラテジスト)
(2020年7月8日)
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