米朝首脳会談に関する相場的解釈

 市川レポート(No.511)米朝首脳会談に関する相場的解釈

  • 米国は先週米朝首脳会談中止を発表、ただその後は両国とも会談実現に向けた動きが活発化。
  • ただ市場の関心はすでに非核化の具体的な手順や、共同声明への明記の有無に向けられている。
  • 会談中止、開催でも非核化手順が曖昧なら、市場は失望、しかし軍事的緊張は一気に高まらず。

米国は先週米朝首脳会談中止を発表、ただその後は両国とも会談実現に向けた動きが活発化

米朝首脳会談を巡る動きが慌ただしくなってきました。これまでの経緯を簡単にまとめたものが図表1です。トランプ米大統領は5月24日、米朝首脳会談を中止する考えを明らかにしました。これに対し、北朝鮮は5月25日、いつでも会談に応じる用意があることを表明すると、トランプ米大統領は同日、「北朝鮮と非常に生産的な話し合いをしている」と述べ、会談は6月12日、必要なら期間延長との見方を示しました。

その後、韓国大統領府は5月26日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が2回目の首脳会談を行ったと発表しました。北朝鮮の朝鮮中央通信も5月27日、南北首脳会談の開催を報じ、金委員長が6月12日の米国との首脳会談開催に確固たる意志を示したと伝えました。そしてトランプ米大統領は5月27日、首脳会談開催に向けた調整のため、米国の代表団が北朝鮮に到着したことを明らかにしました。

ただ市場の関心はすでに非核化の具体的な手順や、共同声明への明記の有無に向けられている

このように、米朝首脳会談は開催に向けて再び動き始めていますが、非核化の手順について、米朝が事前にある程度合意しない限り、6月12日の開催は流動的と思われます。米国が北朝鮮に求めるのは、「完全で検証可能かつ不可逆的な核放棄(CVID)」です。具体的には、核関連施設や核物質の廃棄、国際原子力機関(IAEA)による査察の受け入れであり、経済制裁の解除はその後というのが米国の考え方です(図表2)。

一方、北朝鮮は、体制の保証を確実にした上で、非核化を段階的に進め、その都度、制裁解除を受けることを望んでいます。北朝鮮にしてみれば、CVID後に制裁解除という手順は、リビアのような体制崩壊につながりかねず、核を容易に手放すことはできません。そのため、すでに市場の関心は、非核化の具体的な手順や、それが共同声明に明記されるか否かに向けられていると思われます。

会談中止、開催でも非核化手順が曖昧なら、市場は失望、しかし軍事的緊張は一気に高まらず

米朝首脳会談のような極めて高度な政治問題は、外部から実情を探ることは困難です。ただ、トランプ米大統領が米朝首脳会談中止を表明した後の米朝の動きをみると、今回は、北朝鮮が非核化の手順について米国に何らかの譲歩を示し、その見返りに確固たる体制の保証を求めた可能性があると思われます。しかしながら、これも一般に広く報道されている内容から推測したものに過ぎません。

市場が失望するシナリオとして、①事前協議で非核化の手順に折り合いがつかず、米朝首脳会談が中止になること、②米朝首脳会談が開催されても、非核化の手順が曖昧になること、の2つが考えられます。ただ、米朝のみならず、日本、韓国、中国、ロシアの関係諸国は唯一、「朝鮮半島での有事は極力避けたい」という点で一致しています。そのため、仮に①や②のようなシナリオが実現したとしても、朝鮮半島を巡る軍事的な緊張が一気に高まる恐れは小さいとみています。
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(2018年5月28日)

 

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