米利上げでも金融環境が引き締まらない理由

2017/12/20

市川レポート(No.461)米利上げでも金融環境が引き締まらない理由

  • 米利上げにもかかわらず、全米金融環境指数(NFCI)は、平均より緩和的な金融環境を示唆。
  • その理由はFF金利に上限・下限金利を設定し、それを引き上げる今回の利上げの特殊性にある。
  • 上限・下限金利がある限り、利上げは資金調達コスト増に直結せず金融環境は引き締まりにくい。

 

米利上げにもかかわらず、全米金融環境指数(NFCI)は、平均より緩和的な金融環境を示唆

一般に、利上げが行われると、銀行の資金調達コストが上昇し、企業や家計の銀行借り入れ金利も上昇するため、資金調達が次第に困難となり、金融環境は引き締まります。現在、米国では米連邦準備制度理事会(FRB)が緩やかなペースで利上げを行っていますので、米国の金融環境は徐々に引き締まっていると考えられます。それでは実際に、米国の金融環境がそのように変化しているのか、以下確認してみます。

図表1は、米シカゴ地区連銀が公表している全米金融環境指数(NFCI)です。NFCIは、資金調達の容易さを測る代表的な指標であり、「信用」、「レバレッジ」、「リスク」という3つのカテゴリーに分類される合計105の変数に基づいて算出されます。直近の数値は-0.91で、これは金融環境が平均よりも約1標準偏差、緩和的な水準にあることを示します。

 

その理由はFF金利に上限・下限金利を設定し、それを引き上げる今回の利上げの特殊性にある

つまり、米国では利上げにもかかわらず、金融環境は引き締まっていないことになります。この理由は、今回の利上げの特殊性にあります。詳細は、6月22日付レポート「FRBがバランスシート縮小と利上げを区別できる理由」で解説していますが、FRBは現在、「超過準備預金金利」をフェデラルファンド(FF)金利の上限金利、「翌日物リバースレポ金利」を下限金利とし、利上げにあたっては、これらを引き上げると同時に、上限と下限の間にFF金利が収まるよう資金操作を行っています。

民間金融機関は巨額の余剰資金を準備預金としてFRBに預け入れていますが、そのうち法定準備額を超える分(超過準備)はFRBから金利が支払われ、この金利が超過準備預金金利です。参考までに、12月6日の超過準備残高は約2.2兆ドル、超過準備預金金利は1.25%でした。また、同日における翌日物の銀行間資金取引額は約900億ドルで、実効FF金利(資金取引額で加重平均したFF金利)は1.16%でした。

 

上限・下限金利がある限り、利上げは資金調達コスト増に直結せず金融環境は引き締まりにくい

なお、政府支援機関(GSE)など預金を取り扱っていない金融機関は、準備預金の対象外ですので、超過準備預金金利を受け取れません。その代わり、翌日物リバースレポ(FRBが金融機関から米国債を担保に資金を借り入れる制度)でFRBに資金を供与し、FRBから金利を受け取れます。この金利が翌日物リバースレポ金利です。12月6日の翌日物リバースレポの残高は約3,000億ドル、翌日物リバースレポ金利は1.00%でした(図表2)。

この先、米国で利上げが継続されれば、金融機関にとって、FF金利の上昇で翌日物の資金調達コストは上昇しますが、超過準備預金金利と翌日物リバースレポ金利の上昇で、FRBからの受取利息も増加します。つまり、FF金利に上限と下限が設定されている限り、利上げをしても資金調達コストの上昇に直結せず、金融環境は引き締まりにくいということになります。

 

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(2017年12月20日)

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