QEとヘリコプター・マネーの見分け方

市川レポート(No.288)QEとヘリコプター・マネーの見分け方

  • QEでは財務省の調達資金は家計の預金で賄われるため、新たなおカネが創造される訳ではない。
  • 一方、ヘリコプター・マネーでは家計の預金ではなく、中央銀行が創造した新たなおカネで賄われる。
  • つまり両者を見分ける上では、政府と中央銀行との間に民間銀行が介在するか否かがポイントに。

QEでは財務省の調達資金は家計の預金で賄われるため、新たなおカネが創造される訳ではない

今回は量的緩和(QE)とヘリコプター・マネーの見分け方について考えます。まず現行のQEにおいて、日銀は民間銀行から国債を購入し、その代金を日銀当座預金に入金することでマネタリーベースを増加させています。民間銀行は、日銀に売却する国債を財務省の国債入札経由で購入しますが、その購入原資は家計が民間銀行に預ける預金です。そこで預金を起点にしてこの流れを例示すると以下の通りになります。

①家計が民間銀行に100万円を預金、②財務省が国債を100万円発行、③民間銀行は家計から預かった100万円で国債を購入、④財務省は100万円を調達、⑤民間銀行は国債を日銀へ売却、⑥日銀は国債の購入代金を日銀当座預金に入金(図表1)。つまり財務省の調達資金100万円は家計の預金100万円で賄われており、QEで新たなおカネが生み出される訳ではないことが分かります。国債保有者も単に民間銀行から日銀に代わっただけです。

一方、ヘリコプター・マネーでは家計の預金ではなく、中央銀行が創造した新たなおカネで賄われる

次にヘリコプター・マネーについて考えます。具体的な例として、「財政ファイナンス」を取り上げます。これは「国債のマネタイゼーション」とも呼ばれ、政府が発行する国債などを中央銀行が直接引き受ける行為です。この場合、政府と中央銀行との間に民間銀行は介在しません(図表2)。従って政府の資金調達は家計の預金ではなく、中央銀行発行の新たなおカネで賄われます。

2つめの例として、米連邦準備制度理事会(FRB)の元議長であるベン・バーナンキ氏が提唱する「マネーによる財政プログラム」を取り上げます。過去のレポートでも何度かお話ししていますが、このプログラムでは中央銀行が国債を引き受けず、政府口座に直接資金を振り込むことになります。この場合でもやはり民間銀行は介在せず(図表2)、政府の資金調達は家計の預金ではなく、中央銀行発行の新たなおカネで賄われます。

つまり両者を見分ける上では、政府と中央銀行との間に民間銀行が介在するか否かがポイントに

つまりQEとヘリコプター・マネーを見分ける上では、政府と中央銀行との間に民間銀行が介在するか否かがポイントになります。日銀が現行のQEで、毎月8~12兆円程度の国債を買い続けた場合、今年度の国債発行予定額(市中発行分で約152.2兆円)のうち、年換算で最大9割超を買い入れることになります。それでも財務省と日銀との間に民間銀行が介在しているため、これはヘリコプター・マネーではないと言えます。

財政健全化の問題はさておき、極論すれば現行のQEは、家計の預金残高まで継続可能ということになります。参考までに日銀が公表している2016年3月末(速報値)の金融資産・負債残高表によれば、家計の預金残高は定期預金が約463兆円(流動性預金を含めると約828兆円)、これに対し日銀の国債保有残高(国債・財投債)は約317兆円です。定期預金の数字だけを基にして判断するのであれば、現行方式のQEは上限が近づきつつあるように見受けられます。

160815図表1160815図表2

 

 (2016年8月15日)

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