ECBの政策決定と相場の反応

市川レポート(No.222)ECBの政策決定と相場の反応

  • ECBは物価見通しの下振れを警戒、利下げと量的緩和の拡充を組み合わせた追加緩和を決定。
  • 決定直後はECBトレードが活発化、しかしながらドラギ総裁発言を受けECBトレードは巻き戻しへ。
  • ただ緩和内容は市場の期待以上であり、少なくともリスクオフの度合いを強めるようなものではない。

ECBは物価見通しの下振れを警戒、利下げと量的緩和の拡充を組み合わせた追加緩和を決定

欧州中央銀行(ECB)は3月10日の定例理事会で追加緩和を決定しました。主な内容は、①政策金利の引き下げ(0.05%から0.0%へ)、②限界貸出金利の引き下げ(0.30%から0.25%へ)、③預金ファシリティ金利の引き下げ(-0.3%から-0.4%へ)、④量的緩和の規模拡大(資産購入額を毎月600億ユーロから800億ユーロへ)、⑤量的緩和における購入対象資産の拡大(金融機関を除く投資適格社を追加)、⑥期間4年の長期資金供給策の導入です。

利下げと量的緩和の拡充を組み合わせた今回の追加緩和は、市場の期待を上回る踏み込んだ内容となりました。背景には物価の低迷に対するECBの強い警戒があると考えられます。この日発表されたECBスタッフによるユーロ圏の経済見通しで、2016年の物価上昇率は前年比+0.1%、2017年は同+1.3%となりました。前回12月時点の見通しは、それぞれ同+1.0%、同+1.6%でしたので、大幅に下方修正されたことになります。

決定直後はECBトレードが活発化、しかしながらドラギ総裁発言を受けECBトレードは巻き戻しへ

ECBの追加緩和により一段の金利低下観測が強まると、金融市場では「ECBトレード(欧州株買い、欧州国債買い、ユーロ売りなどの取引)」が活発化しました(図表1、2)。ストックス欧州600指数は一時、前日比+2.5%まで上昇し、ドイツ10年国債利回りは前日の0.24%水準から0.157%水準まで低下しました。為替市場ではユーロ安が進行し、前日の1ユーロ=1.0999ドル水準から、一時1.0822ドル水準まで下落しました。

しかしその後の記者会見において、ドラギ総裁が「追加利下げが必要になるとは思わない」と発言すると市場のムードは一変し、「ECBトレード」は急速に巻き戻されました(図表1,2)。ストックス欧州600指数は反落して結局前日比-1.7%で取引を終え、ドイツ10年国債利回りは0.157%水準から一気に0.3%台まで上昇する場面もみられました。またユーロは対米ドル、対円ともに急騰しました。

ただ緩和内容は市場の期待以上であり、少なくともリスクオフの度合いを強めるようなものではない

ECBは市場の期待以上の追加緩和を決定しましたが、ドラギ総裁の発言に市場は失望する結果となりました。ただドラギ総裁の発言をよくみると、「経済成長と物価の安定を支援する現行の政策を考慮した場合、現時点での見通しでは追加利下げが必要になるとは思わない。もちろん新たな要素が出てくれば、状況や見通しは変化し得る」と述べています。そのため必ずしも利下げ打ち止めを示唆するものではないことが分かります。

今回のECB理事会は、リスクオフ(回避)の度合いを大幅に弱めるイベントにはなりませんでしたが、緩和内容は市場の期待以上であり、少なくともその度合いを強めるようなものではありません。次の焦点は3月14日、15日の日銀金融政策決定会合、3月15日、16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)です。日銀はマイナス金利の影響を見極めるため政策を据え置くと思われ、FOMCも政策変更なしと予想します。FOMCでは声明やイエレン議長の記者会見での政策判断に関するトーンで相場が動意づく可能性もあるため注意が必要です。またFOMCメンバーによる最新の経済見通しも発表されるため、政策金利の予想水準にも注目したいと思います。

 

160311 図表1 160311 図表2

 (2016年3月11日)

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