金利マーケットの変調

市川レポート(No.221)金利マーケットの変調

  • 短期金融市場ではコール市場における取引残高が急減しており、市場機能の低下が懸念される。
  • 国債は入札時点ですでに利回りがマイナスに、超長期国債の利回りは更なる低下が予想される。
  • 2月は本邦機関投資家による外債投資が急増、ただし必ずしも円相場の押し下げに直結せず。

短期金融市場ではコール市場における取引残高が急減しており、市場機能の低下が懸念される

日銀は1月29日に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を決定し、2月16日から日銀当座預金残高の一部に-0.1%の付利を開始しました。日本の金融政策史上においてマイナス金利の導入は初めてのことであり、市場が短期間でその影響を消化することは極めて困難と思われます。そのため足元では多くの金利マーケットで変調がみられるようになっています。

まず短期金融市場に目を向けます。金融機関が期間1年未満の資金を融通し合うコール市場では、取引残高が急減しています(図表1)。1月28日時点における有担保コール市場の残高は14.4兆円、無担保コール市場は8.0兆円でしたが、3月8日時点ではそれぞれ1.5兆円、4.7兆円まで落ち込んでいます。取引の中心となる無担保コール翌日物の金利はマイナスがほぼ定着していますが、取引自体は細っており、市場機能の低下が懸念されます。

国債は入札時点ですでに利回りがマイナスに、超長期国債の利回りは更なる低下が予想される

次に国債市場の動きをみると、利回りに強い下押し圧力が生じていることが確認できます。財務省が3月1日に実施した10年国債入札では、初めてマイナスの利回りが記録されました。すでに2年国債や5年国債の入札でもマイナス利回りとなる動きがみられており、入札時点ですでに利回りがマイナスとなる異例の事態となっています。なお10年国債利回りは3月8日に-0.1%まで低下し、日銀によるマイナスの付利金利と並びました。

金融機関はマイナス利回りの国債を満期まで保有すれば損失を被りますが、日銀に転売することで利益を得られる可能性があり、これがマイナス利回りでも国債を購入する強い動機になっています。また市場では日銀がマイナス金利を追加的に引き下げるとの見方もあり、債券価格の先高観も需要増に結び付いていると思われます。そのため10年国債のみならず、10年超の国債についても利回りの更なる低下が予想されます。

2月は本邦機関投資家による外債投資が急増、ただし必ずしも円相場の押し下げに直結せず

このように短期・長期とも円の金利がマイナス圏に沈むなか、行き場を失った投資マネーは一部海外に向かっているとみられます。財務省が発表した投資家部門別対外証券投資によれば、2月の中長期債の買い越し額は、銀行等(銀行勘定)が2015年9月以来で最大の2.2兆円、生命保険会社が2008年4月以来で最大の1.0兆円となりました(図表2)。日銀がマイナス金利の導入を決定して以降、機関投資家の外債投資意欲が強まった様子が窺えます。

円金利がマイナス圏に沈み、為替ヘッジコストは総じて上昇しているため、一部の外債投資は為替ヘッジなしで行われた可能性もあります。ただそれでも2月のドル円やユーロ円の実際の動きをみる限り、円相場全体を押し下げるほどの勢いはなかったと思われます。外債投資の増加はマイナス金利のポートフォリオリバランス効果といえますが、今回のように必ずしもそれが円安の動きに直結しないこともあります。日銀はマイナス金利の影響を当面見極めるとみられ、3月14日、15日の日銀金融政策決定会合では政策を据え置くと予想します。

 

160309 図表1 160309 図表2

 (2016年3月9日)

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