原油相場の要点整理
市川レポート(No.202)原油相場の要点整理
- 世界の株式市場は、その0.1%程度の規模しかない原油先物市場に振り回される状況が続く。
- 一段の原油安で悪影響を受けるのは産油国経済であり、将来的な減産合意の可能性は残ろう。
- 原油安で株安は、投機的・心理的な要素が大きく、リスク要因を冷静に見極める必要がある。
世界の株式市場は、その0.1%程度の規模しかない原油先物市場に振り回される状況が続く
ここにきて原油価格の変動が大きくなっています。WTI原油先物価格は1月20日に1バレル=26ドル19セントまで下落しましたが、その後は反発し、25日には32ドル74セントまで値を戻しました。翌26日には29ドル25セントまで押し戻されましたが、同日のうちに32ドル台まで急反発しています。昨年からの投機筋の動きを勘案すると(図表1)、足元の変動にも投機的な取引が関与していると推測されます。
現状では不安定な原油の動きに世界の株式市場が振り回されている格好になっていますが、原油先物市場自体の規模は決して大きくありません。WTI原油先物市場について、直近の総建玉と取引価格を基に算出した数字を時価総額とすると約540億ドルになります。これに対し世界の株式市場の時価総額は直近で約58兆ドルですので、WTI原油先物市場の規模はそのわずか0.1%程度に過ぎません。まさに「しっぽが犬をふる(The tail wagging the dog、本末転倒)」状態です。
一段の原油安で悪影響を受けるのは産油国経済であり、将来的な減産合意の可能性は残ろう
そもそも原油安は供給超過が主因であり、サウジアラビアとイランの関係悪化によって、両国が加盟する石油輸出国機構(OPEC)での減産合意の公算が小さくなったことも影響しています。なお原油安は米シェールオイル生産の採算を悪化させる要因ですが、サウジアラビアが価格よりもシェア優先で生産を続ける背景には、2011年のエジプト革命を機に関係が悪化した米国への政治的な策略があるように思われます。
ただ自国経済の原油依存度の大きさを勘案すれば、一段の原油安進行で悪影響を受けるのは結局、産油国経済であり、米国への影響は限定的と考えられます(図表2)。そのためサウジアラビアなどが経済危機や財政危機のリスクを無視して生産を続けるとも思えず、将来的な減産合意の可能性は残るとみています。実際、1月25日にOPEC事務局長は産油国すべてに減産協力を呼びかけました。
原油安で株安は、投機的・心理的な要素が大きく、リスク要因を冷静に見極める必要がある
また市場では、原油安によって財政が悪化した産油国の政府系ファンドが保有株式を売却することで、株式相場の下げが加速するとの見方が強まっています。そこで以下、簡単な試算で株価への影響を考えてみます。主な産油国の政府系ファンドで資産規模の大きいものを合算すると直近で約3.1兆ドルとなります。半分を株式運用と仮定すれば、世界の株式市場の時価総額に占めるシェアは2.7%程度です。これが各国に分散投資され、また全額売却という極端なことはないと考えれば、少なくとも先進国の株式市場が原油安だけで総崩れになるとは思われません。
つまり原油安で世界的に株安が進むのは、投機的・心理的な面によることころが大きいと考えます。原油安はエネルギーを輸入する日本にとってプラスの材料です。しかしながら原油安で金融市場が混乱し、株安や円高が進行した場合は、家計の消費行動や企業の投資行動に影響が及ぶ恐れがあり、日本経済や企業業績にとってマイナスに作用してしまいます。従って「しっぽが犬をふる」状態にならないためには、個々のリスク要因を冷静に見極めて相場と向き合う必要があると考えます。
(2016年1月27日)
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