人民元に関する考察
市川レポート(No.198)人民元に関する考察
- 基準値が年初から速いペースで元安方向に設定され、金融市場では元切り下げの思惑が浮上。
- ただここ数日の基準値安定やオフショア市場での介入により、金融市場が幾分落ち着く可能性も。
- また今後は基準値が通貨バスケットとの連動性を強めていくことも、人民元相場の安定要因に。
基準値が年初から速いペースで元安方向に設定され、金融市場では元切り下げの思惑が浮上
中国人民銀行(PBOC、中央銀行)は2015年8月11日に、人民元の対米ドル為替レートの「基準値」を前日から1.9%元安方向に引き下げました。人民元はその後しばらく対米ドルでの安定推移が続きましたが、年末にかけて徐々に米ドル高・人民元安傾向が顕著になりました。年明け以降、比較的速いペースで米ドル高・人民元安方向への基準値設定が続くと、金融市場では人民元切り下げの思惑からリスクオフ(回避)の動きが強まりました。
昨年末からの人民元安の背景には、国際通貨基金(IMF)による特別引き出し権(SDR)構成通貨への採用が決まった2015年11月30日以降、中国金融当局が介入を控え、より柔軟な相場運営に方針を変更した可能性があると推測されます。なお人民元の対米ドル為替レートの基準値は、2016年1月7日以降12日まで、1米ドル=6.56元台前半で設定され、人民元安方向への動きはいったん小休止しています(図表1)。
ただここ数日の基準値安定やオフショア市場での介入により、金融市場が幾分落ち着く可能性も
なお人民元の為替取引は、オンショア(中国本土内)市場とオフショア(中国本土外)市場で分断されているため、対米ドルの為替レートが両市場で常に一致することはありません。取引が分断されているのは、オンショア市場が中国当局の厳しい管理下にある一方、オフショア市場はその管理外にあるため、両市場をまたいでの為替取引が自由に行えないからです。
オフショア市場では人民元の先安観から、昨年末にかけて大幅な米ドル高・人民元安が進行し、オンショア市場の為替レートとの乖離が顕著になりました。これに対し人民銀はオフショア市場である香港市場で、ここ数日大規模な米ドル売り・人民元買い介入を行ったとみられます。介入の影響で香港市場の人民元建て短期金利が急騰し、為替レートの乖離はほぼ解消しました(図表2)。人民元安の進行は年明けに金融市場が混乱した1つの要因でしたので、中国当局の一連の施策が奏功すれば、金融市場がある程度落ち着く可能性もあります。
また今後は基準値が通貨バスケットとの連動性を強めていくことも、人民元相場の安定要因に
なお2016年1月11日、人民銀の馬駿チーフエコノミストは、人民元の基準値は前日終値や通貨バスケットの変動を含む要因で決定しているが、今後は通貨バスケットへの連動性が強まるとの考え方を示しました。中国外国為替システム(CFETS)は2015年12月11日に主要13通貨で構成される新たな人民元の指数を発表しており、通貨バスケットはこの指数を指すものと考えられます。
今後、市場参加者の間に、人民元の対米ドル為替レートの基準値は通貨バスケットの動きで決まる度合いが大きくなるという認識が広がって行けば、人民元相場の安定につながる可能性はあります。ただCFETSが毎週金曜日に発表する新たな人民元指数は、今のところ元安方向に推移していることから、必ずしもすぐに人民元相場の安定につながるとは限らない点には注意が必要です。
(2016年1月13日)
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