新興国通貨および資源国通貨の動向
市川レポート(No.157)新興国通貨および資源国通貨の動向
- 米中の不確実性がやや低下するなか、新興国・資源国通貨を買い戻す動きが優勢となる。
- 約17年ぶりの安値をつけたインドネシアルピア、マレーシアリンギットは足元大幅高に。
- 新興国・資源国通貨はまだ不安定さが残る見通しだが、通貨危機を懸念する状況にない。
米中の不確実性がやや低下するなか、新興国・資源国通貨を買い戻す動きが優勢となる
新興国通貨や資源国通貨は夏場以降、対米ドルでの減価が顕著となりました。新興国通貨安の背景には主に米国の利上げ観測が、そして資源国通貨安の背景には中国景気の減速懸念があると思われます。具体的には、利上げ開始→米長期金利上昇→投資マネーの新興国から米国への還流、また中国の景気減速→資源需要の大幅減少→資源国の経済悪化、という思惑であり、新興国通貨や資源国通貨の下落は、不確実性に備えたリスク・ポジションの圧縮といえます。
しかしながら10月に入ると、これらの通貨を買い戻す動きが優勢となり、相場の潮目に変化がみられるようになりました。要因としては9月の米雇用統計が予想を下回り、年内の米利上げ観測が大きく後退したことで、利上げ時期に関する不確実性がやや和らいだことが考えられます。また中国でも、上海株や人民元の堅調さや10月10日に流動性供給強化措置を発表した人民銀行の緩和スタンスが、中国の不確実性に対する懸念を後退させる方向に幾分作用しているように思われます。
約17年ぶりの安値をつけたインドネシアルピア、マレーシアリンギットは足元大幅高に
主な新興国通貨や資源国通貨について、2015年9月30日を基準として10月12日までの対米ドルでの上昇率をみると、図表1の通りになります。インドネシアルピアは先月、対米ドルでアジア通貨危機以来、約17年ぶりの安値圏に沈みましたが、10月に入ってからは9.3%上昇し、図表1の11通貨中最大の上昇率となりました。マレーシアリンギットの対米ドル為替レートも8月に約17年ぶりの安値を付けた後、10月7日に17年ぶりの大幅高となりました。
また資源価格も持ち直しの動きが見られます。2015年9月30日から10月12日まで間、原油価格の代表的な指標であるWTI原油先物価格は+4.5%、鉄鉱石(中国天津港渡しの鉄含有量62%)の価格は+0.5%、ニューヨーク商品取引所(COMEX)で取引される金先物価格は+4.4%となっています。この動きに連れ、資源産出国であるロシア、オーストラリア、ブラジル、南アフリカの通貨も同期間における対米ドルでの上昇基調が鮮明となっています。
新興国・資源国通貨はまだ不安定さが残る見通しだが、通貨危機を懸念する状況にない
しかしながら米国と中国の2つの不確実性は完全に解消された訳ではないため、新興国・資源国通貨は主要国の株価と同様、米雇用統計やFOMC、また中国の株価や経済指標の動向をにらみ、振れ幅の大きな展開が続く可能性があります。また新興国や資源国のなかには政局不安などの難題を抱える国も多く、これらの問題が解決されるには相応の時間が必要と思われます(図表2)。
ただ過去のレポートでもお話ししましたが、近年は変動相場制を採用する新興国が増えており、自国通貨安が進行しても直ちに通貨危機が発生するリスクは小さくなっています。またアジアでは短期債務残高に対する外貨準備高の割合は2倍以上となっている国も多く、この先米国の利上げが行われても、資金流出で金融市場が深刻な打撃を受ける公算は極めて小さいと思われます。新興国・資源国通貨は今しばらく不安定さが残る見通しですが、少なくとも通貨危機を懸念する状況にはないとみています。
(2015年10月14日)
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