原油安の影響を考える

市川レポート(No.124) 原油安の影響を考える

  • 需給悪化懸念を強める材料が相次ぐなか、原油価格は当面低位で推移すると予想。
  • 原油安で産油国通貨などが下落し、株式市場でも関連業種のパフォーマンスが悪化。
  • ただ原油安は恩恵も多く、全体では緩やかな経済成長を支える方向に作用しよう。

 

需給悪化懸念を強める材料が相次ぐなか、原油価格は当面低位で推移すると予想

 原油価格の代表的な指標であるWTI原油先物価格は8月3日、1バレル=45ドル17セントで取引を終え、終値ベースでは3月19日以来の安値となりました(図表1)。原油安の理由としては、同日発表された中国の7月製造業購買担当者景気指数(PMI)改定値が2年ぶりの低水準となり、中国の原油需要が減少するとの見方につながったことや、米国の石油リグ(掘削装置)稼働数の増加傾向が続き、需給悪化懸念が強まったことなどが挙げられます。

 また昨日は、制裁解除後1週間以内に原油増産が可能とのイラン石油相の発言も材料視されました。実際にイランの経済制裁が解除されるには、国際原子力機関(IAEA)の査察や米議会の承認などの手順を踏まねばならず、直ちにイランの原油輸出が始まる訳ではありません。ただこの将来的な需給悪化要因を先物価格が早々に織り込み始めている可能性があり、また米利上げによる過剰流動性の縮小観測も根強いことなどを勘案すると、原油価格は当面低位で推移すると予想されます。  

原油安で産油国通貨などが下落し、株式市場でも関連業種のパフォーマンスが悪化

 原油安は関連市場にも影響が及んでいます。為替市場ではカナダドル、ノルウェークローネ、ロシアルーブルなどの産油国通貨が減価し(図表2)、エネルギー関連企業の起債が多い米ハイイールド債券や、資源関連事業の多いMLP(Master Limited Partnership、米国で行われる共同事業形態のひとつ)の価格も下落しています。原油安は、サウジアラビア、イラク、クウェートをはじめとする中東諸国やロシアなど、産油国のなかでも原油輸出依存度の大きい国々の経済にとってはマイナスの要素であり、原油安が長期化した場合は、財政面の懸念が強まる恐れもあります。

 また株式市場についても原油安が関連業種のパフォーマンスの重しとなっています。年初から8月3日までの騰落率をみると、米国ではS&P500種株価指数の10業種のうち、エネルギーは-15.1%となっており、S&P500種株価指数の+1.9%を大きく下回っています。また日本でも東証33業種のうち、鉱業は-2.7%、石油・石炭製品は+9.3%となっており、東証株価指数(TOPIX)の+17.9%を大幅にアンダーパフォームするなど、原油安の影響を大きく受けていることが分かります。

ただ原油安は恩恵も多く、全体では緩やかな経済成長を支える方向に作用しよう

 しかしながら原油安は悪い影響ばかりではありません。アジア諸国では原油輸入依存度の高いタイ、インドなどが大きな恩恵を受けると考えられます。また米国や日本でも、原油安はガソリン価格等の低下を通じて家計の実質所得を押上げるため、消費の追い風となります。さらに株式市場では、原油安が好材料となる業種として、一般的に海運、空運、陸運、電力、化学などが挙げられます。前述の通り、原油価格は当面低位で推移すると思われますが、短期間で急落するような事態に陥らない限りは、世界全体でみれば緩やかな経済成長を支える方向に作用するとの見方に変わりはありません。 

   150804 図表1 150804 図表2 

 (2015年8月4日)

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