日銀と物価指数

 市川レポート(No.120) 日銀と物価指数

  • 日銀が発表した新たな消費者物価指数では、足元で物価の上昇基調が示された。
  • 原油安など明確な理由があれば、物価の伸びが鈍化しても日銀の追加緩和は不要。
  • 日銀は物価目標の達成期限について、「中長期」への変更を検討してもよかろう。

 

日銀が発表した新たな消費者物価指数では、足元で物価の上昇基調が示された

 全国消費者物価指数には、総務省が発表している①「総合指数」、②「生鮮食品を除く総合指数」、③「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数」があります。日銀は物価安定の目標として、消費者物価の前年比上昇率2%を設定していますが、経済・物価情勢の展望(展望レポート)で②「生鮮食品を除く総合指数」の見通しを公表しており、この指数が政策運営の目安と考えられます。

 こうしたなか日銀は、②「生鮮食品を除く総合指数」からエネルギーを除いた新しい物価指数を独自で計算し、④「生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数」として7月の金融経済月報で公表しました。エネルギーを除いたのは、原油価格の大幅な下落で物価統計に発生したゆがみを正すためと思われます。実際、②~④を比較すると、足元の物価の上昇基調は④が最も明らかであることが分かります(図表1)。しかしながら政策に一貫性を持たせるため、今後も日銀が②を重視する姿勢は変わらないとみられ、直ちにこの新しい指数を政策運営の目安として採用することはないと考えます。  

原油安など明確な理由があれば、物価の伸びが鈍化しても日銀の追加緩和は不要

 原油安の物価への下押し圧力は、夏場にピークを迎えるとみられます。そのため②「生鮮食品を除く総合指数」の前年比伸び率は目先、低調な数字が予想されますが、秋以降は緩やかに持ち直す見通しです(図表2)。この間も金融経済月報で④の動きが示され続けると思われますので、市場関係者はゆがみの少ない指標で物価動向を把握することができるようになります。年後半は、原油安の物価下押し圧力の後退や、賃上げ効果による消費拡大などが見込まれるなか、日銀のシナリオである2016年度前半頃に2%程度の物価上昇率を実現できるか否かを見極める時間帯となります。

 一般に物価目標は政策運営を厳格に縛るものではなく、透明性を高めるものとして位置付けられています。そのため物価目標を採用する中央銀行の多くは、足元の物価が目標から一時的に乖離しても、金融政策を柔軟に運営しています。これに倣えば、原油安など明確な理由があれば物価の伸びが鈍化しても、日銀は直ちに追加緩和を行う必要はありません。また国内経済に目を向けても、4-6月期の経済成長は一時的に減速する可能性はありますが、この先、デフレの世界に逆戻りしてしまうような環境にはありません。

日銀は物価目標の達成期限について、「中長期」への変更を検討してもよかろう

 それでも日銀が「2016年度前半頃」という期限をコミットしている限り、物価の伸びが弱いまま時間が経過すれば、市場ではどうしても追加緩和の思惑が強まってしまいます。そもそも日銀がこのような期限を設定して2%の早期の実現に強くこだわっているのは、日本に長きにわたって定着したデフレマインドを抜本的に転換させる必要があったからです。ただ現時点では少なくとも、深刻なデフレによって物価の伸びがマイナス圏に沈み続ける状況からは脱しており、当初よりも期限設定の必然性は後退しているのではないかと思われます。物価目標の達成期限を「中長期」とする中央銀行は多いことから、日銀もそろそろ達成期限を「中長期」に変更することを検討しても良いのではないかと思います。 

 150729 図表1150729 図表2 

 (2015年7月29日)

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