イエレン議長の議会証言と米利上げ時期

 市川レポート(No.113) イエレン議長の議会証言と米利上げ時期

  • イエレン議長は先行きの労働市場、経済、物価について楽観的な見方を示す。
  • 労働市場に「スラック」が残るなかでも利上げに踏み切ることが考えられる。
  • 今後の雇用統計などのデータ精査後、早ければ9月のFOMCで利上げの可能性。

 

イエレン議長は先行きの労働市場、経済、物価について楽観的な見方を示す

 米国では2月と7月の年2回、米連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策報告書を議会に提出し、FRB議長が上下両院で金融政策について証言を行います。この議会証言は1978年に成立したハンフリー・ホーキンス法で義務付けられていましたが、同法が2000年に失効した後も継続されています。イエレン議長は7月15日、下院の金融サービス委員会で証言に臨みました。

 イエレン議長は雇用について、労働市場の状況は大幅に改善したとの見解を明らかにしました。ただ依然として需給の緩み(スラック)が残り、最大雇用にはまだ達していないとした上で、先行きの見通しは労働市場と広範な経済が一層改善する好ましいものであると述べました。また物価については、エネルギー価格の下落など一時的要因が剥落し、労働市場が一段と改善すれば、中期的に2%の上昇率目標に戻っていくとの認識を示しました。

労働市場に「スラック」が残るなかでも利上げに踏み切ることが考えられる

 なおギリシャ問題や中国株の下落についても言及しましたが、過度な懸念はみられませんでした。そして金融政策に関しては、米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの大半は年末までに利上げが適切になると6月に予測していると述べました。ただ利上げは会合毎に検討するという従来の主張を繰り返し、最初の利上げに関する市場の予想が特定の時期に集中しないよう配慮し、利上げ決定の自由度確保に努めています。

 イエレン議長は議会証言後の質疑応答で、「初回の利上げを先送りした場合、利上げ開始後の引き上げペースを一段と速めざるを得なくなる可能性がある」と述べました。また5月22日の講演において、「失業率や物価が目標に達するまで金融引き締めを遅らせると、景気過熱のリスクにつながりかねない」と発言しています。そのため労働市場に「スラック」が残る(図表1、2)状態でも、利上げに踏み切ることも想定されます。

今後の雇用統計などのデータ精査後、早ければ9月のFOMCで利上げの可能性

 一般に利上げはインフレ抑制のために行われるので、通常の概念からすれば上記の判断にはやや違和感があるように思われます。しかしながらそもそも今回の利上げは、以下3点で過去の利上げとは異なります。すなわち今回は、①非伝統的金融政策からの出口となる金融政策の正常化であること、②金融正常化が始まった後も米国債の再投資が継続され、過剰流動性は急速に縮小しないとみられること、③金融正常化のペースは緩やかなものになり、フェデラルファンド(FF)金利が正常の水準に戻るには数年を要するとみられることです。したがって、利上げ開始による米国内外の経済や金融市場へのマイナスの悪影響は、今の市場で警戒されているよりもかなり抑制されるのではないかとみています。

 それでも利上げをする以上、少なくともFOMC声明のフォワードガイダンスで示される利上げの2条件(①労働市場のさらなる改善、②物価上昇率が中期的に2%の目標に戻っていくとの合理的な確信)と整合性を保つ必要があります。特に米長期金利が急騰しないよう、FRBには市場との丁寧かつ高度なコミュニケーションが求められることから、7月28日、29日のFOMC声明にも注目したいと思います。またこの先発表される雇用統計と個人消費支出(PCE)物価指数のデータを2カ月分精査した後、早ければ9月16日、17日のFOMCで利上げが行われる可能性はあるとみています。 

150716 図表1150716 図表2

 (2015年7月16日)

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