イエレン議長の真意を探る

 市川レポート(No.78) イエレン議長の真意を探る

  • イエレン議長の22日の講演は必ずしも年内に利上げをするという内容ではない。
  • 労働市場には緩みが残り、景気と物価は「足元慎重、先行き楽観」の見方を維持。
  • 真意は市場に年内利上げの「可能性を意識」させ、安易な期待をけん制すること。

 

イエレン議長の22日の講演は必ずしも年内に利上げをするという内容ではない

 米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は5月22日、米ロードアイランド州で経済見通しに関する講演を行いました。同日に発表された4月の米消費者物価指数(CPI)の伸びが拡大していたことに加え、講演では条件付きながらも「年内のある時点で(at some point this year)最初の利上げを行うことが適切」と述べられたことから、この日の米金融市場は株安、ドル高、国債利回り上昇(価格は低下)で反応しました。ただ講演の原稿全体をよく読むと、必ずしも年内に利上げをするという内容ではなく、それ以上に金融政策に対するイエレン議長の強い思いが窺えます。  

労働市場には緩みが残り、景気と物価は「足元慎重、先行き楽観」の見方を維持

  講演では労働市場、景気、物価、そして金融政策に関する見解が示されました。前半は労働市場についての部分で、「おそらく失業率は労働市場における緩み(slack)の度合いを完全には捉えていないであろう」、「フルタイム職が見つからないためにパートターム職に就いている者が大勢おり(図表1)、この多くは労働市場の緩みの象徴と思われる」、「失望するほど低い賃金の伸びは労働市場の完全な回復を示唆していない」など、従来の慎重な見方が維持されました。また中盤では景気と物価の見通しについて述べられていましたが、基本的には4月の米連邦公開市場委員会(FOMC)やFOMC議事要旨で示されたものと相違なく、「足元慎重、先行き楽観」の見方に変わりはありませんでした。

真意は市場に年内利上げの「可能性を意識」させ、安易な期待をけん制すること

 そして後半が金融政策について述べた部分になります。はじめに「金融政策の決定から実体経済にその効果が表れるまで著しい時間差があるため、将来を見据えて(in a forward-looking manner)政策決定をしなければならない」、「失業率や物価が目標に達するまで金融引き締めを遅らせると、景気過熱のリスクにつながりかねない」と主張しており、ここにイエレン議長の真意があるように思われます。この後に、前述の「年内のある時点で最初の利上げを行うことが適切」という文言が続きますが、利上げの意向が強すぎないよう「想定通りに景気の回復が続いた場合は」という条件が付いています。

 さらにFOMC声明のフォワードガイダンスで示される利上げの2条件(①労働市場のさらなる改善、②物価上昇率が中期的に2%の目標に戻っていくとの合理的な確信)が記載され、また利上げ後について「金融正常化のペースは緩やかなものになることが予想される」、「フェデラルファンド(FF)金利が正常の水準に戻るには数年(several years)を要する」と付記されています。

 今回の講演におけるイエレン議長の真意は、金融政策の特性と後手に回るリスクに言及し、市場に年内利上げの「可能性を意識」させることで、安易な緩和継続期待と過度なリスクオン(選好)をけん制することにあったように思われます。ただその一方で、利上げに対する過剰な警戒が強まらないよう、改めてフォワードガイダンスを引用して利上げペースにも触れ、急速な利上げが織り込まれないよう慎重にバランスを保つことに配慮したと考えます。市場では利上げ開始を年明け以降とみる向きもありますが、上記の諸点を踏まえると年内利上げの可能性は十分あると思われます。引き続き利上げについては、早ければ9月16、17日開催のFOMCで決定されると予想します。 

150526 図表1

 (2015年5月26日)

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