米利上げ休止前後の米金融市場は

2018/11/30

▣ パウエル議長の発言を受け、利上げの早期打ち止め観測が強まる

パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の11月28日の講演を受け、早期の利上げ打ち止め観測が浮上しています。

パウエル議長は10月には、政策金利は「中立水準まで長い道のりがある」(long way from neutral)と、利上げ継続に積極的な姿勢を示していましたが、28日の講演では、政策金利は「景気を加速も減速もさせない中立水準の幅広い推定レンジをわずかに下回っている」(just below the broad range of estimates)と発言し、利上げに慎重なハト派寄りの姿勢を示したとの観測が広がりました。

中立金利については、政策金利がこの水準を下回っていれば緩和的(景気刺激)、上回っていれば引き締め的(景気鎮静)と解釈できます。FRBは現在、この中立金利に向かって緩やかな利上げを継続中です。中立金利まで距離があるのであれば、利上げが長期間継続する、中立金利に近ければ利上げ休止が近いとの見方になります。

また、29日公表の米連邦公開市場委員会(FOMC、11月7-8日)の議事要旨では、追加利上げが間もなく正当化される公算が大きいとの見解が示され、12月の利上げが示唆された一方、一部の参加者は政策金利が中立水準付近にあると指摘したことなどから、利上げ打ち止めが意識され、米長期金利(10年債利回り)は一時3.0%を割り込みました。

▣ 中立水準の解釈次第で、米利上げに異なる見方

中立金利は、四半期に一度公表されるFOMCメンバーの政策金利の長期見通しが目安の水準になります。9月の見通しの中央値は3.0%、中心レンジは2.75~3.0%、広義(メンバー全員)のレンジは2.5~3.5%となっています。仮にパウエル議長が指した幅広い推定レンジが2.5~3.5%とするならば、足元の政策金利は2.0~2.25%ですから、中立水準をわずかに下回っているとの発言は現状追認で、特にハト派的とは言えないかもしれません。

とはいえ、マーケットが織り込む2019年の利上げ回数は11月上旬には2回まで増えましたが、足元では1回に減っていいます。また、その1回で利上げが打ち止めになるとの織り込みとなっており、9月のFOMCメンバーの政策金利見通し(2019年3回、2020年1回利上げ)とは、大きくかい離してきました。

▣ 米利上げ休止前後の米金融市場の動き

9月のFOMCメンバーの政策金利見通しでは、2020年に利上げ休止見通しでしたが、米中貿易摩擦の影響や世界経済の減速懸念などを背景に、利上げ休止がやや近づいている可能性はありそうです。

1990年代半ば以降で米国の利上げ局面が終了したのは、1995年2月1日、1997年3月25日、2000年5月16日、2006年6月29日。1回だけ利上げした97年3月25日を除いた利上げ休止の前後の、米株、米金利、ドル円の動きは、以下のとおりです。

  • 米利上げ休止前は一進一退、米利上げの休止を受け、直近2回は米株は堅調な動きに(図表1、2)
  • 米長期金利は上昇から低下に(図表3、4)
  • ドル円は、米長期金利低下はドル安要因も、株価堅調で底堅い動き(1995年はメキシコ通貨危機、米金利低下などでドルは急落も、その後は持ち直し)(図表5、6)

過去2回の利上げ休止前後には、ITバブル崩壊やサブプライムローン問題の顕在化・リーマンショック(世界金融危機)を受けて景気後退が発生しました(2001年3月~2001年11月、2007年12月~2009年6月)が、利上げ休止だけで金融市場が大きく混乱することはなさそうです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/env/

 

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