日銀、現状維持もステルステーパリングは継続中

2018/11/02 <>

▣ 物価見通しを若干引き下げ

日銀は10月30~31日に開いた金融政策決定会合で、短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度に誘導する金融緩和策(長短金利操作、イールドカーブ・コントロール)の現状維持を決定しました。また、フォワードガイダンス等についても維持しました。

あわせて公表された四半期に一度の「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」では、成長率の見通しを18年度は前回7月から0.1ポイント引き下げ1.4%、19、20年度はそれぞれ0.8%に据え置きました(図表1)。物価見通しについては、18年度を0.9%、19年度を1.4%、20年度を1.5%と、それぞれ前回から0.2、0.1、0.1ポイント引き下げました。

▣ なかなか上昇しない物価

日銀は、なかなか上昇しない物価の要因について、前回の展望レポートの中で、「物価上昇に時間を要している背景」として分析しています。それによると、

  • 企業の賃金設定スタンスがなお慎重であり、本格的な賃金上昇の実現に時間がかかっている
  • 家計の値上げに対する許容度が明確には高まっていない
  • 仕入価格が上昇し、賃金コストが緩やかながら着実に増加しているもとでも、企業の価格設定スタンスはなお慎重である
  • 競争環境が厳しさを増していることに伴う価格押し下げ圧力が、携帯電話関連やスーパーなどいくつかの分野で働いている

などが要因として挙げられています。

もっとも、日銀からは今回も、前回と同様、「マクロ的な需給ギャップ(日本の経済全体の総需要と供給力の差)がプラスの状態(需要>供給)が続くもとで、中長期的な予想物価上昇率も徐々に高まり、この結果、消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇率を高めていく」との、従来の見解が示されました。

▣ 日銀のステルステーパリングは継続中

これまでの日銀の物価見通しは、展望レポートごとに下方修正される傾向が続いています(図表2)。とはいえ、民間の予測とはかい離が大きく、日銀の見通しは希望的観測に近いと言えるかもしれません(図表3)。また、民間、日銀とも2%の物価目標達成を見通せない状況が続いています。

会合後の記者会見で黒田総裁は、「2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現するという大きな目的に向け、必要かつ十分な対応策を取っていく」と、これまで通り物価目標達成に向けて金融政策を実施していく方針を示しました。政府、日銀が2%の物価目標にこだわる(2%を下方に修正しない)限り、現行の強力な金融緩和政策が続くことになります。

とはいえ、日銀は7月に「強力な金融緩和継続のための枠組みの強化」として、長期金利のある程度の変動は容認するよう柔軟な運用に微調整しました。また、ETF(指数連動型上場投資信託)およびJ-REIT(不動産投資信託)の買入れについても、買入れを弾力的に実施する方針に変更しました。

その後は、8月31日に発表した「当面の長期国債等の買入れの運営について」で、当面の月間買入予定について、残存期間1年超10年以下の1回当たりのオファー金額を増やすとともに、頻度を月6回から5回に減らしました(図表4)。9月28日発表の当面の月間買入予定では、残存25年超の1回当たりのオファー金額を減額。そして、10月31日に発表した当面の月間買入予定では、1年超5年以下についてさらに1回当たりのオファー金額を増し、頻度を月5回から4回に減らしました。1回当たりのオファー金額は増額されましたが、月間の買入れ総額については減額となることから、日銀のステルステーパリング(隠れた量的緩和の縮小)は継続中です。

国内の長期金利は、日銀が国債買入れオペの運営を変更するとの観測が後退したことなどから、一時0.105%まで低下しましたが、1日には一時0.135%まで上昇しました。

今後は、物価目標達成が見通せない中、現行の強力な金融政策をどこまで柔軟化させるのかが注目されます。残存期間5年以上の国債の買入れ頻度を減らす、月末に公表している国債買入れオペの日程を非公表にする、±0.2%程度としている長期金利の変動幅を拡大させる、長期金利から5年国債利回りに操作対象を変更する、国債の買入れ額を明示的に減額する等の思わくはくすぶります。金利の方向性としては限定的ながら、やや上昇方向となりそうです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/env/

 

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