米政策金利は来年にも中立水準に到達

2018/08/31

▣ 年内の利上げはあと2回、来年半ばには中立金利到達も

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は8月24日のジャクソンホールでの講演で、「米経済の力強い成長が続けば、さらなる緩やかな利上げが適切」と、利上げを継続する姿勢を示しました。年内あと2回の利上げ(9月、12月の会合)はほぼ確実視されており、現在1.75-2.0%の政策金利は年末には2.25-2.5%まで上昇することになります。

6月に公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの政策金利見通しでは、中立金利は2.875%(2.75-3.0%の中間値)。今後、年4回のペースで利上げした場合には、来年半ばには政策金利は中立金利に到達することになります。

▣ 中立金利

中立金利は、景気に対して緩和的でも引き締め的でもない(景気を刺激も抑制もしない)中立的な金利のことをいいます。中立金利はインフレ率を差し引いた実質金利を指す場合がありますが、ここではインフレ率を差し引かないそのままの名目的な金利(例えば店頭や新聞で目にする預金金利、政策金利、長期金利など)として使っています。FRBは四半期に一度FOMCメンバーの政策金利見通しを公表していますが、その中の長期見通しが米国の中立金利の目安とされています。政策金利が中立金利を下回っていれば緩和的(景気刺激)、上回っていれば引き締め的(景気鎮静)と解釈できます。

中立金利の水準が当面変わらないとすると、政策金利が中立金利に到達した局面での金融政策が注目されます。

▣ 中立金利到達時に利上げを休止するか

6月のFOMCの政策金利見通しでは、今年はあと2回の利上げで2.25-2.5%(中央値2.375%)まで上昇、2019年は3回の利上げで3.0-3.25%(同3.125%)まで上昇、2020年は利上げ1回で3.25-3.5%(同3.375%)まで上昇した後、長期見通し(中立金利)の2.75-3.0%(同2.875%)に収束していくことになります。2019年には一旦、中立金利の水準に到達するとの見通しです。

インフレ率が過熱する兆候は見られず、期待インフレ率も落ち着いた状況が続いた場合(図表1)、政策金利が中立金利に到達した後、FOMCの政策金利見通しどおり、(1)さらに利上げを継続するのか、(2)利上げを休止するのか、見方が分かれます。

(1)を支持するメンバー

  • エバンス・シカゴ連銀総裁:インフレが引き続き、2%、2%で推移した場合、中立水準を若干上回る緩やかな引き締めが必要になる。中立水準と見ている2.75%を0.5%上回る水準まで金利を引き上げ、金融政策を引き締め気味に設定したとしても驚かない
  • ウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁:金利が中立金利に達すれば、利上げを一時停止する必要は必ずしもなく、景気が堅調さを維持すれば、金利が一定期間中立金利を上回る可能性がある

(2)を支持するメンバー

  • ボスティック・アトランタ連銀総裁:中立水準での利上げ小休止が理にかなう
  • カプラン・ダラス連銀総裁:金利はあと3、4回の利上げで推定中立水準に到達する見通しだが、到達した時点で一服し、経済見通しやイールドカーブなど各種要素を検討し、それから適切となり得る追加対応を決定したい

その他、メスター・クリーブランド連銀総裁は「現時点では、FF金利(フェデラル・ファンドレート)誘導目標を3.0%付近と思われる中立金利以上に引き上げるべきかの判断は難しい」との見解、他方、ブラード・セントルイス連銀総裁は「仮に自分だけで判断するなら、現状の政策金利を維持し、今後の経済データに沿って対応しようとするだろう」と、追加利上げに否定的な見解を示しています。

また、パウエル議長は、「最近のインフレ率は(物価目標の)2%近くまで上昇してきているが、2%を超えて加速していく明確な兆候は見られず、景気が過熱するリスクが高まっている兆しも見られない」、「それは中立的水準に緩やかに近づいてきている金融政策の正常化プロセスの結果」と、中立的な水準を超えた積極的な利上げを推進する姿勢は見られません。

中立金利の水準に政策金利が到達したときの経済データ次第ですが、現時点では利上げ休止の支持がやや多そうです。

今後は、米経済が過熱しなければ、少なくとも来年半ばまでは緩和的な金融政策が続くことが見込まれます。中立金利に到達した段階で利上げを休止すると見込んだ場合には、政策金利だけでなく長短金利も中立金利に収れんしていくと考えられます(図表2)。米10年債利回り、米30年債利回りは既に中立金利の水準に到達しており、一段の上昇は限定的と言えそうです。また為替についても、米長期金利の上昇が限られれば、ドル円の上昇も限定的となる可能性が高そうです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/env/

 

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