日銀のステルス・テーパリング

2018/08/24 <>

▣ 長期国債の増加ペースは50兆円割れ

国債などの資産を中央銀行が買い入れる量的金融緩和については、米連邦準備制度理事会(FRB)は既にテーパリング(資産買入れの段階的縮小)を終了し、保有する米国債の残高を徐々に縮小していく段階。欧州中央銀行(ECB)については、月300億ユーロの資産買入れを10月から月150億ユーロに減額し、年内で終了する見込みで、テーパリングが進行中。他方、日銀については、なし崩し的にテーパリングが進んでいます。

日銀は、長期国債の買入れ額について保有残高の増加額年間約80 兆円をめどとしています。ただ、2016年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入して以降、買入れ額が減少し、2017年は長期国債の保有額は58兆円弱の増加にとどまりました。2018年も今のところ年換算で46兆円増のペースと、50兆円を下回るペースに減速しています(図表1)。

FRB、ECBともに月々の買入れ額を明示するテーパリングですが、日銀については緩和姿勢が後退したと受け取られることを避けるため、“80兆円めど”は変えていません。その代わり、7月の会合での「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」では、“市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうる”との方針を加え、80兆円に大きく届かない現在の買入れを肯定した格好です。

日銀は長期国債の買入れ額の減額(保有残高の増加ペースの鈍化)をあらかじめ明示せず、こっそり減額していることから、“ステルス・テーパリング(隠れた縮小)”と呼ばれています。2013年5月には当時のバーナンキFRB議長がテーパリング開始を示唆したことを受け、米長期金利が急上昇するなど、金融市場が大きく混乱しました(テーパー・タントラム)。日銀は、円レートの急騰などの金融市場の混乱を回避しながら、長期国債の買入れ額を縮小している模様です(図表2)。

▣ ETFもステルス・テーパリング開始か

他方、株価指数連動型上場投資信託(ETF)の買入れについても“ステルス・テーパリング”が始まったとの見方が広がっています。

これまで日銀は、保有残高が年間6兆円に相当するペースで買入れを行うとしてきており、その方針どおりに残高を積み上げてきました(図表3、4)。ただ、「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」で、“市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうる”との方針を付け加え、より弾力的な運用にシフトさせました。

8月のETF買入れ(設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF以外)は、これまでのところ2回にとどまっています。2017年以降、前場のTOPIXの騰落率がマイナス0.3%を下回った場合には必ずETF買入れを実施してきた日銀ですが、今年7月に1回、8月には4回、ETF買入れを見送り、8月15日にはマイナス0.43%でも実施されませんでした(図表5)。年初からの買入れが多く、買入れ余地が乏しい状況でもなく、株価が急上昇してETF買入れが不要な局面でもないため、“ステルス・テーパリング”が始まったとの見方が広がることになりました。

日銀のETF買入れは、相場の下落局面では厚く、上昇局面では薄くと、相場の下支えに寄与していると考えられます(図表6)。もっとも、日銀のETF買入れはリスク資産を購入することで日銀の財務健全性を歪める、株価の公正な形成を歪める、日銀が実質的な大口株主となることにより企業統治を歪める、出口(金融政策の正常化、ETF売却)に向かった場合には市場へ悪影響を及ぼすなど、弊害も懸念されている状況で、買入れ縮小は一概に市場にマイナスとは言えません。また既に日経平均株価は、2012年の8,000円台で低迷していた水準から、2万2,000円を超える水準まで上昇しており、日銀がETFを買い入れる必要性は薄れてきています。

ETFについても日銀の“ステルス・テーパリング”が始まったと結論付けするのはまだ早いかもしれません。ただ、長期国債買入れで実証されているように、“6兆円”という数字を掲げている限り、実際の買入れ額が若干減ったとしても、相場への影響は限定的とみられます。また、相場が急落した際の買い余力は維持していることから、相場の急落時の下支えとしての役割は変わらないとみられます。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/env/

 

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