米金利の上限の目安

2018/02/02 <>

米10年債利回りが2月1日には2.79%と2014年4月以来の水準、30年債利回りも昨年5月以来の3.0%台と、米国債利回りが上昇してきています(図表1)。米国債利回りが底を打ったのは昨年9月。北朝鮮が建国記念日にあたる9日に、弾道ミサイルの発射や核実験などの挑発行為を見送ったことに加え、大型ハリケーン「イルマ」による被害が想定よりも小さくなる見込みになったこと、またトランプ米政権が税制改革案を公表したことを受け、米景気が刺激されるとの見方が強まったことが、じりじりと低下していた米金利を反転させました。米連邦準備制度理事会(FRB)が、10月から保有資産の縮小開始を決定したことも、影響したとみられます。その後は、米10年債利回りは2.25%~2.50%のレンジで推移していましたが、年明け以降、当面の上限のめどとみられていた2.50%をあっさり上抜け、上昇基調が続いています。

▣ 足元の押し上げ要因

一段と米国債利回りを押し上げている主な要因としては、米利上げ観測、景気刺激策、財政悪化懸念、期待インフレ率上昇、日欧の金融緩和策の縮小観測などが挙げられます。米連邦公開市場委員会(FOMC)の投票権を持つメンバーが1月から入れ替わり、利上げに前向きなタカ派色がやや強まることが見込まれる中、1月のFOMCの声明文では、物価に対する認識を強めるとともに、「経済環境がフェデラルファンド(FF)金利の一段の緩やかな上昇を正当化する」と、今後の利上げ継続を強調しました。昨年12月に公表されたFOMCの政策金利見通しでは、2018年は3回の利上げ見通しとなっていますが、このペースが速まるのではとの警戒が、米国債利回りを押し上げているとみられます。

米金融政策のほかにも、米国では大型減税に加え、トランプ大統領が1月30日の一般教書演説で公表したインフラ投資計画で、経済成長が底上げされるとともに、財政悪化による国債増発への懸念も、米国債利回りの押し上げ材料とみられます。

また、期待インフレ率もじりじりと上昇してきていることに加え(図表2)、欧州中央銀行(ECB)の量的緩和の早期終了観測、日銀の金融緩和策の修正観測なども、金融緩和政策の縮小を意識させている模様です。

▣ 米利上げペースと長期金利

米利上げペースについては、昨年は2016年12月のFOMCの見通しどおり、3回の利上げが実施されました。2016年末時点での市場の利上げ見通しは、2017年は2回強でしたが、その後はFRBの利上げとともに、2017年の利上げの織り込み回数が上昇していきました。一方、2016年末と2017年末の米10年債利回りの水準は、2.4%程度とほぼ同水準(図表3)。2年債などの残存期間の短い債券の利回りは、政策金利の上昇の影響を直接受けますが、長めの債券利回りへの影響は、短い債券ほど強くありません。

足元では、米金融市場が織り込む2018年の利上げ回数は3回弱。仮に、4回の利上げが実施されたとしても、0.25%が直接長期金利に上乗せされることにはならないとみられます。

米国の減税やインフラ投資については、すでにトランプ氏が大統領選に勝利した2016年11月に米長期金利は急上昇しており、大方織り込み済みとみることもできます。そろそろ米長期金利が落ち着いてきてもよさそうです。

▣ 利上げ局面での長短金利の上限

とはいえ、米金利が下がりにくくなっているのは事実です。

前回の利上げ局面では、2004年6月末に政策金利を1.0%から1.25%に引き上げ、以降FOMC毎に0.25%の利上げを実施、2006年6月末に5.25%に政策金利を引き上げて利上げを終了し、2007年9月に利下げを開始しました(図表4)。2004年6月末~2006年6月末までの利上げ局面での米国債利回りの上限は、2年債、5年債、10年債、30年債で、それぞれ5.28%、5.23%、5.24%、5.32%程度。政策金利のピークである5.25%をわずかに超える程度の水準が、前回の利上げ局面における米国債利回りの上限でした。

FOMCの政策金利見通しでは、2020年末が3.063%、その後の長期見通しは2.75%に低下しています。3.063%が将来的な政策金利のピークとすると、ひとまずこの水準が今回の利上げ局面の、長短金利の上限の目安になりそうです。

もっとも、2月にはパウエル氏がFRBの新議長に就任します。月内には議会証言が行われる予定で、新議長の下での金融政策運営を確認する必要があります。また、3月のFOMCでは今年最初の利上げ決定が見込まれます。あわせて公表される経済見通しや政策金利見通し、また新議長の記者会見で、今後の米金融政策を占うことになります。しばらくは、米金利は高めの水準でのもみ合いが続きそうです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/env/

 

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