日銀は、現在の金融緩和を粘り強く続けていく方針

2017/11/02

▣ 物価見通しを引き下げ

日銀は、10月30、31日の金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決めました。あわせて公表された経済・物価情勢の展望(展望レポート)の主なポイントは以下の通りです。

  • 携帯電話通信料の値下げの影響等から2017年度、2018年度の物価見通しを若干引下げ(図表1)
  • 物価目標の達成時期は、2019年度頃と、前回の7月から変わらず
  • リスクバランスについて、前回の「経済・物価ともに下振れリスクの方が大きい」から、「リスクバランスをみると、経済については概ね上下にバランスしているが、物価については下振れリスクの方が大きい」と、経済についての下振れリスクは後退

▣ 株式市場において過度な期待の強気化を示す動きは観察されていない

日銀の長期国債の買入れペースは鈍っている(図表2)一方、指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J-REIT)の買入れペースは変わっていません。今回の会合終了後の黒田日銀総裁の記者会見では、10月の買入れが1回しかなかったことや、株価が21年ぶりの高値まで上昇していることから、ETFの買入れについての質問が目立ちました。

記者会見の主なポイントは以下の通りです。

○ETFの買入れについて:

  • ETFの買入れは、年間約6 兆円を買い入れるということが調節方針で、長期国債の80兆円めどとは違う。ただ、実際の買入れ額は市場の状況に応じて変動することはある
  • 株式市場において過度な期待の強気化を示す動きは観察されていないと判断しており、今後とも市場の状況に応じて、買入れを進めていく
  • また、ETFの買入れは、全体の金融緩和のパッケージの中にある一要素。将来の時点で何らかの調整を行う場合に、全体の要素全てが同時に調整される必要はない
  • 株式市場の相当部分を日本銀行が買うことになると、マーケットの価格に非常に大きな影響を与えているのではないかということになるかもしれないが、3%程度の保有であり、現時点では何か大きなリスクがあるとは考えていない

○「イールドカーブ・コントロール」について:

現時点で今の「イールドカーブ・コントロール」を変更する必要があるとは思っていない。政策金利を2%の「物価安定の目標」を達成する前に調整するのか、達成した後に調整するのかについては、その時の経済・物価・金融情勢による

○出口について:

今の時点で具体的に出口の議論をするのはかえってミスリードになり、市場に対してもマイナスになってしまう

○将来的な金融政策の備え(将来的な景気後退期に対する金融緩和策の手段確保)について:

将来の何かの時のために、今から引き締めましょうとか、そうしたことは本末転倒だと思う。あくまでも、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために、現在の金融緩和を粘り強く続けていくということに尽きる

▣ 強力な金融緩和は続くが

また会合では、7月から審議委員に就任した片岡氏が、「イールドカーブ・コントロール(短期金利に▲0.1%のマイナス金利を適用、10 年物国債金利はゼロ%程度)」については、より長期の金利を引き下げる観点から、15 年物国債金利が0.2%未満で推移するよう、長期国債の買入れを行うことが適当であるとして、「イールドカーブ・コントロール」に反対しました。

10年超の国債利回りを引き下げるという意図だと推察されますが、20年国債、30年国債を対象とせず、新発の国債として発行されていない15年物の国債の金利(利回り)を対象としているのはやや中途半端。また、量的緩和の拡大を提案しなかったことで、国債などの買入れの限界を意識させることになりました。

衆院選で自民党が大勝したこともあり、アベノミクスの柱である金融緩和政策は当面継続するとみられます。ただ、黒田総裁の任期は2018年4月8日まで。黒田総裁が再任しない場合には、若干かもしれませんが、金融政策が調整される可能性もあります。前回は2013年2月末に、政府が黒田氏を総裁に起用する人事案を国会に提出しました。年明けから本格化するとみられる総裁人事が注目されます。

※日本銀行当座預金のうち政策金利残高(民間の銀行が日銀口座に預ける預金残高のうちの一部)に適用する金利

 

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/env/

 

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