米長期金利の最近の動き

2017/09/15 <>

▣ 米長期金利が一時2.0%に接近、足元ではやや持ち直し

米連邦準備制度理事会(FRB)が、昨年12月に続き、今年3月、6月に政策金利を引き上げるなど、米国は利上げ局面にあります。ただ、米長期金利(10年債利回り)は今年に入り、特に3月中旬以降、じりじりと低下する動きが続き、9月7日には2.04%と年初来の最低を更新しました(図表1)。

足元では、北朝鮮情勢への過度な警戒や大型ハリケーンによる経済的打撃への過度な懸念が後退したことから、2.2%弱に戻していますが、昨年12月中旬、今年の3月中旬につけた2.6%前後と比べると低水準。トランプ政権の政策で経済成長が押し上げられるとの期待やインフラ投資などによる国債増発懸念が後退していることに加え、物価上昇率が鈍いため、緩和縮小が緩やかなペースになると見込まれることなどが主な要因として挙げられます。8月の米消費者物価指数(CPI)は前月比0.4%上昇、食品とエネルギーを除くコアCPIは前月比0.2%上昇と、前月から伸びが加速したものの、持ち直しが持続するかはまだ不透明で、米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の政策金利の長期金利見通し(6月時点)の3%がやや遠くなっている状況です。

2004年6月から2006年6月までの前回の利上げ局面でも、中盤まで米長期金利は上下動を繰り返す一進一退の動きになりました。ただ、市場は緩やかな利上げを期待する傾向がみられます。2006年に入ってからは、予想より政策金利引き上げが継続したため、政策金利の上昇に沿って長期金利が上昇する動きになりました。

▣ FRBは慎重姿勢

FRBは市場との対話に比較的積極的なので、次の手については経済データとともに金融当局者の発言から推察することになります。最近の主な発言は、

  • 当局はバランスシートの正常化を望んでおり、バランスシート(量的緩和策で買入れ、残高を維持してきた米国債などの資産)縮小のプロセスを近く開始すべき。
  • バランスシート正常化のプロセスを開始するにあたり、米金融当局は米国債などの市場の動きを注視する。
  • 市場に与える不安や何らかの混乱のリスクが最小限となる方法で実施したい。
  • インフレ率が2%の目標に戻るだろうとの信頼を失っていない。米国は完全雇用に向かっている。過去の例では通常は賃金圧力と、それが一段の物価圧力につながるのを見ていた。われわれはこれまでのようにそうした状況を目にしていない。
  • 漸進的な利上げの道筋を続けることで中期的なインフレリスクの先を行くことが重要
  • インフレが当局の目標を幾分下回っているものの、金融緩和策を徐々に解除し続けることがなお適切である。

9月のFOMCでのバランスシート縮小着手は既定路線ですが、早期の利上げについては積極的な発言はほとんどなく、12月の追加利上げについては今後の経済データ次第になりそうです。

また、2013年に当時のバーナンキFRB議長が、量的緩和第3弾(QE3)の縮小に言及した際には、米金利が急上昇しました(テーパー・タントラム)。この経験を踏まえて、バランスシート縮小についても非常に慎重なペースになることが見込まれます

▣ 日本の金融市場への影響は

米長期金利との連動性が高いドル円についても、日米の金融政策の方向性の違いからドル高・円安地合いとの見方ができます。ただ、米長期金利の上昇が鈍いと、ドル円の動きも限定的になる可能性があります。足元では、地政学リスクなどへの過度の警戒が後退し持ち直していますが、一段の上昇は米長期金利が上昇しないと厳しそうです(図表2)。国内株も持ち直しており、企業業績も良好ですが、ドル円の上昇が限定的ならば、上値が重くなる可能性があります(図表3)。国内の長期金利については、米長期金利の上昇が鈍いことに加え、日銀の強力な金融緩和(長短金利操作付き量的・質的金融緩和)の下、ゼロ%近辺での推移が見込まれます。Jリートについては、毎月分配型投資信託からの資金流出が弱まっているものの、重しになっている状況が続いています。とはいえ、ゼロ%付近の長期金利と比べ4%を超える予想分配利回りは魅力的で、底堅い動きが見込まれます。

来週の19、20日にFOMCが開かれます。バランスシート縮小を開始するか、政策金利見通しが引き下げられるか、12月の利上げについての示唆はあるかなどが注目されます。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/env/

 

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