「ヘリコプターマネー」浮上
▣ 最後の手段としてのヘリコプターマネー
ドル円が105円を回復し、英国の国民投票前の水準まで戻ってきています(図表1)。
円買い、ドル売り材料が増えていた為替市場ですが、英国で新しい首相が決まり、英国不安がやや和らいだことや、6月の米雇用統計で雇用者数が大幅に増加したことを受け投資家心理が改善したこと、また緩やかなペースながらも米国は利上げの方向であるとの認識が広がっていることなどが、円安・ドル高の背景です。
加えて、参院選で与党が勝利し、財政出動を伴う景気対策への期待が広がったタイミングで、「ヘリコプターマネー」賛成論者で前FRB(米連邦準備制度理事会)議長のベン・バーナンキ氏が来日し、ヘリコプターマネーへの期待が浮上したことも、円売り・ドル買いの材料になっている模様です。
ヘリコプターマネーは、ミルトン・フリードマンが1969年の論文「最適貨幣量」で用いた表現。ヘリコプターから現金をばらまくように、政府や中央銀行が国民にお金を配る政策で、政府の景気刺激策の財源を中央銀行の紙幣増刷で賄うことを指します。バーナンキ氏は、 “ヘリコプター・ベン”との異名を持ち、以前日銀に対し、デフレ脱却のため、「ヘリコプターから紙幣をばらまけばよい」と述べたことでも知られています。ただ、通貨の信任や、財政規律が失われることで、ハイパーインフレを招きかねない“禁じ手”として慎重論が根強い政策です。
▣ 日本には有効との見方も
もっとも、財政政策や金融政策の限界が懸念される中、日本のようにデフレと低成長に苦しんでいる国にとっては、最後の手段として有効との見方もあります。
日銀が行っている債券購入などの量的緩和は、短期金利だけでなく長期金利も低下させ、借入と消費を増加させることを意図していますが、需要がなければ効果は薄くなってしまいます。一方、ヘリコプターマネーでばらまかれたお金は物やサービスに向かい、物価や消費を引き上げます。他方、財政出動では、返済しなければならない政府の借り入れが増えることから、将来の増税が予想され、家計の消費が抑えられる可能性があります。これに対しヘリコプターマネーでは、国が発行した償還期限のない永久国債などを日銀が引き受けることで、将来の増税を懸念する必要はなくなります。
財政規律に配慮しつつ、インフレをコントロールできるのであれば、今の日本にとっては魅力的な選択かもしれません。
▣ ドル円は企業の想定為替の圏内に
日銀が7月1日に発表した企業短期経済観測調査(短観、6月調査)では、事業計画の前提となっている想定為替レート(大企業・製造業)は、ドル円が111円41銭と3月の117円46銭から大幅に引き下げられました。ただ、足元の106円前後とは大きなかい離があります。また、日米英の株式のボラティリティ指数をみると、米英に比べ日本についてはまだ低下しきっておらず、日本は先行きの警戒感が残っている状況です(図表2)。
もっとも、QUICKが集計した今期の想定為替レートで、105円~110円としている企業が65%を占めます(図表3)。105円を超える水準が定着すれば、国内株市場に安心感が広がることが見込まれます。
▣ メインシナリオは“財政出動+金融緩和”、サブシナリオは“ヘリコプターマネー”
円安定着のカギを握るのは、経済対策と日銀の金融政策。安倍首相は12日、石原経済再生相に月内に経済対策をとりまとめるよう指示しました。具体的な事業規模は明らかになっていないものの、10兆円超になるとの観測が出てきています。他方、月末の28、29日には日銀の金融政策決定会合が開かれます。
日銀は異次元の金融緩和でデフレ脱却、景気浮揚を図ってきましたが、金融政策だけでは限界があります。7月は財政出動と組み合わせることができるめったにない機会と言えます。ヘリコプターマネーまでは踏み込めないとの見方が大勢ですが、踏み込んだ場合には相当なインパクトを市場に与えることになります。
日銀は、政府の経済対策を後押しするため、4月のようなゼロ回答(追加緩和見送り)はできない雰囲気になってきています。足元では政府、日銀の政策を催促するように、株高・円安が進行しています。政策期待は株高・円安材料ですが、荒い動きになることには注意が必要です。
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