FRBのテーパリングへの警戒は一旦後退も

2021/02/05 <>

▣ 今年の後半にはテーパリング開始が一段と意識される可能性

米連邦準備制度理事会(FRB)は現在、ゼロ金利政策とともに、米国債を月800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を月400億ドルのペースで買い入れる量的緩和(QE)による大規模な金融緩和を続けています。FRBは量的緩和について、「最大雇用と物価安定の目標に向けてさらに著しい進展があるまで続ける」方針です。

ただ、米金融政策を決定する米連邦公開市場委員会(FOMC)の一部のメンバーから、「あくまでも状況がはるかに好調に推移すれば」、「想定外に力強さを増せば」という前提付きながら、この量的緩和を段階的に減額していくテーパリングの開始についての発言が出始めました。

パウエルFRB議長は、「テーパリングの議論は時期尚早」と述べていますが、今後の米景気の回復次第では、今年の後半にはテーパリング開始が一段と意識される可能性があります。

▣ 前回のQE3時のテーパリングを参考にすると

前回の量的緩和(QE3)時の出口戦略は以下のとおりです。

  • 米金融当局者の発言などでテーパリングを市場に織り込ませる ・・・前回は2013年5月以降
  • テーパリング開始                          ・・・同2014年1月
  • テーパリング終了                          ・・・同2014年10月
  • テーパリング終了後も、保有証券残高を維持
  • 利上げ開始                               ・・・同2015年12月
  • 保有証券残高の縮小開始               ・・・同2017年10月
  • 利下げ開始                     ・・・同2019年7月
  • 保有証券残高の縮小終了               ・・・同2019年8月

今後の米金融政策について、2023年までゼロ金利政策を維持することを前提にした場合には、2022年にテーパリング開始~終了、2023年は保有証券残高を維持、2024年に利上げ開始といったシナリオが考えられます。

もっとも、バーナンキショック時のように、いきなりFRB議長が早期のテーパリングを示唆し、市場にサプライズを与えるようなことは避けるとみられます。また、早い段階からテーパリングを市場に意識させ、テーパリング決定時や開始時の市場の混乱を避けることも想定されます。最近の米金融当局者の発言は、将来的なテーパリングに向けた地ならしとも考えられます。

テーパリングを開始した場合でも、金融緩和政策は継続する姿勢を示すとともに、テーパリングが終了しても、保有する米国債などの償還金は再投資して、保有証券残高を維持することが見込まれます。

※2013年5月に、当時のバーナンキFRB議長が議会証言で、今後、幾度かの会合を経て、債券の購入ペースを徐々に減速することで量的緩和を縮小する可能性を示唆したことを受け、米金利の急騰や新興国の通貨や株式などからの資金流出などをまねき、金融市場が大きく混乱しました。テーパリングを示唆して、市場が癇癪に陥り、バーナンキショックとなったことで「テーパータントラム」とも呼ばれます。

▣ テーパリング開始は金融市場に少なからぬ影響

前回は、2013年5月初めに1.6%強だった米長期金利が、量的緩和の縮小観測が出始め1.9%強まで上昇、そして5月22日にバーナンキFRB議長がテーパリングを示唆したことから警戒感が一気に強まり、米長期金利は7月上旬には2.7%強まで、9月上旬には3%程度まで急上昇しました。ただ、2014年1月のテーパリング開始後には低下に転じ、2015年1月には1.6%半ばまで低下しました(図表1)。バーナンキショックのような市場の混乱を回避できれば、米長期金利の上昇は限定的となる可能性がありそうです。

とはいえ、量的緩和は米金利(押し下げ)だけでなく、ドル(希薄化、減価)へも大きな影響を与えています。また、財政政策やゼロ金利政策とともに、米株を過去最高値まで押し上げた要因の一つである量的緩和による緩和マネーの供給が鈍化することへの懸念が強まることにも注意が必要です。

今年は、コロナの動向や、米経済の回復、また米金融当局者の発言を確認しつつ、テーパリング開始の時期を探ることになりそうです。8月のジャクソンホール会議(カンザスシティ連銀が主催する経済政策シンポジウム、各国の中央銀行総裁や政治家、学者などが参加して世界経済や金融政策について議論)でのパウエル議長の発言も例年以上に注目を集めそうです。

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