米国でYCCが導入されたら

2020/08/07 <>

▣ 米金融市場は追加緩和との見方

米10年債利回り(長期金利)は8月4日には0.50%と、新型コロナウイルスの感染拡大への警戒が極度に強まった3月上旬以来の水準を付けるなど、じりじりと低下しています(図表1)。
日本の長期金利については、日銀のイールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)によりゼロ%近辺に誘導されている一方、米国の長期金利については、米連邦準備制度理事会(FRB)による国債買入れで上昇を抑えられている面はありますが、将来の金利などについてもある程度織り込みながら動いています。米長期金利の低下は、米中の対立、新型コロナの再拡大による経済停滞などから、緩和政策が長期化するとの観測が背景にあるとみられます。
米短期金融市場は依然としてマイナス金利導入の可能性を捨てておらず、少なくとも何らかの追加の金融緩和に踏み切るとの見方が強いようです(図表2)。

▣ 更なる金融緩和手段は

更なる米国の金融緩和手段としては、(1)量的緩和(国債等購入)の拡大、(2)フォワードガイダンス導入(政策金利を維持する期間や変更する際の条件などを明言)、(3)イールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)、(4)マイナス金利の導入などが挙げられます。
(1)、(2)については比較的採用しやすい政策です。他方、(3)のYCCについては、日本の例などを参考に協議が続いているとみられます。(4)のマイナス金利については、金融機関の収益環境や年金等の運用環境の悪化などの副作用が懸念されることから、導入のハードルは高そうです。

▣ 米国でYCCが導入されたら

YCCについては、日本のほか豪州でも導入されています。日本は10年国債利回りである長期金利をゼロ%程度に誘導していますが、オーストラリア準備銀行(中央銀行、RBA)は3年国債利回りを政策金利であるキャッシュレート(銀行間取引の翌日物貸出金利)と同水準の0.25%に設定しています。
豪州ついては3年国債利回りが対象となったことから、10年国債利回りの低下は限定的で、イールドカーブ(利回り曲線)のフラット化(平坦化)もさほど進んではいません(図表3)。ただ、豪州では今後徐々に金利が上昇していくとの見方が根強いため、フラット化が抑えられているとみられます。

米国でもYCC導入との声も聞こえますが、仮に導入する場合には、日本のように長期金利ではなく、豪州のようにもう少し年限が短い国債の利回りがコントロールの対象となる可能性が高そうです。仮に導入された場合には、米国ではすでにイールドカーブのフラット化が進行していることから、一段のフラット化は限定的になる可能性があります。
とはいえ、イールドカーブが中央銀行にコントロールされているとの見方が強まると、イールドカーブの変動性が小さくなる(低位で安定する)ことも想定され、残存期間10年超の長めの米国債も投資対象として検討できそうです。

▣ しばらくはジャクソンホール会議、9月のFOMC待ち

FRBは、金融政策の枠組み見直しの議論を再開し、審議を近々まとめる方針です。また、8月27-28日にはジャクソンホール会議(世界の中央銀行首脳らが集まる経済シンポジウム)が開催されます(テーマは「今後10年の進路:金融政策への示唆」)。
今年のジャクソンホール会議は、新型コロナの影響でオンライン形式での変則的な開催となりますが、パウエルFRB議長が今後の金融政策について発言する可能性は残ります。また、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC、15-16日)では、金融政策の枠組み見直しが示される可能性があります。
ジャクソンホール会議や9月のFOMCの内容を確認するまでは、金融政策面からは、米長期金利の低下やドル安進行の動きは限定的となりそうです。

 

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