下期も利回り追求

2019/10/04

▣ 上期は株高、円高、債券高

2019年度上期の金融市場は、米国と中国で報復関税の応酬が続くなど、米中間の通商問題をめぐる対立や英国の欧州連合(EU)離脱などに振らされながらも、欧米の金融緩和に支えられながら、株高、円高、債券高となりました(図表1、2)。特に昨年下期から継続している長期金利の低下が目立ちました。

▣ 内外の金利は大きく低下

金融政策では米連邦準備制度理事会(FRB)は7月に10年半ぶりに利下げに踏み切り、9月にも追加利下げを決定しました。また、欧州中央銀行(ECB)は9月にマイナス金利の深掘りと資産購入(量的緩和)などを含む包括的な金融緩和を決めました。国内でも日銀の追加緩和観測が広がりました。

3月末には2.2%の水準を上回っていた米国のイールドカーブ(利回り曲線)は9月末には30年債利回りまですべて2.2%を下回る水準に低下しました(図表3)。ドイツのイールドカーブは残存年数30年までの利回りがすべてマイナス圏に、日本のイールドカーブも残存年数15年までの利回りがマイナス圏に沈みました。

世界的な景気減速懸念を背景に、FRBやECBなど各国中銀に金融緩和の動きが広がる中、内外の低金利が長期化するとの見方に加え、より高い利回りを求める投資家の“利回り追求”(サーチ・フォー・イールドあるいはイールド・ハンティング)の動きが強まったことが、内外の債券利回りを押し下げました(図表4)。この動きは、相対的に高い分配金利回りのJリート(不動産投資信託)にも波及しました。9月下旬には、東証REIT指数は2007年8月以来の水準まで押し上げられました。

▣ 日銀はイールドカーブのスティープ化を促す

今後の国内のイールドカーブについては、黒田日銀総裁は事あるごとに「超長期の金利が下がり過ぎると、年金とか生保の運用の低下を通じて、消費者マインドが冷えてしまう」と発言していることから、日銀としては残存年数が長い債券ほど利回りが高くなるイールドカーブのスティープ化(急こう配化)を促したいと考えているようです。

9月末に公表した長期国債等の当面の月間買入予定(10月の国債買い入れオペの方針)では、1回あたりの買入額の範囲について、残存年数1年超3年以下を増額する一方、それより長い残存年数の国債については減額しました。また、25年超については範囲を0~500億円と、超長期国債の利回りが低下し過ぎた場合には、買入れを行わないこともありうるとし、長期や超長期の金利低下を抑制する姿勢を示しました。

▣ 日米欧は一段の金融緩和も

10月末に予定されている日銀金融政策決定会合では、経済・物価動向を改めて点検するとともに、マイナス金利の深掘りなどを決定する可能性がありますが、その場合には長期や超長期の金利低下を抑制する姿勢を引き続き示すとみられます。ただ、投資家の利回り志向は根強いため、長期、超長期金利の上昇は限定的となりそうです。

他方、FRBやECBへの過度な金融緩和期待はやや後退していますが、米サプライマネジメント協会(ISM)の9月の製造業景況指数は10年3か月ぶりの低水準、ドイツの9月のインフレ率は0.9%と予想に反して減速し、ほぼ3年ぶりの低水準となるなど、低調な経済指標を背景に、もう一段の金融緩和の可能性は低くありません。

▣ 下期も利回り追求

公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は10月1日、マイナス利回りとなる国内債券が増加していることを背景に、外国債券への投資を増額できるよう2019年度の運用計画を変更すると発表しました。外国債券への投資拡大を継続する模様です。

欧米についても低金利が長期化することが見込まれる中、米国債の利回りやドイツ、フランスなどを除く欧州債利回りは、国内債の利回りを上回っています。米国債は為替の変動リスクを回避するためのヘッジコストが高く、また残存年数が長い債券に投資しても利回り向上は限定的であることから、残存年数の短い債券に為替ヘッジなしで投資、他方、欧州債についてはヘッジコストがマイナス(受け取り、ヘッジプレミアム)となり、イールドカーブも右肩上がり(残存年数が長いほど利回りが高い)であるため、利回りの低い短期債ではなく、為替ヘッジした中長期債への投資などが考えられます。

また、低金利環境が長期化する中、Jリートだけでなく、高配当株なども物色の対象になる可能性があります。下期も、利回りを追求する動きが継続しそうです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/env/

 

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