米利下げの織り込みと米長期金利、ドル円の目安

2019/07/08 <>

▣ 米金利低下に伴い、ドル安・円高が進行

米長期金利は、インフレ率が低迷する中、米連邦準備制度理事会(FRB)の早期利下げを織り込む形で、低下傾向が続いていました。ただ、パウエルFRB議長が過度な利下げ期待をけん制したこと、米中首脳会談で中国製品3,000億ドル相当に対する関税発動が見送られたことなどから、米長期金利は一旦下げ止まりました(図表1)。また、日米金利差の縮小などから一時107円を割り込んだドル円についても、108円台まで戻りました(図表2)。7月2日には、米クリーブランド連銀のメスター総裁が利下げを決定するのは時期尚早と発言したものの市場の反応は限定的で、イングランド銀行(英中央銀行)のカーニー総裁が慎重な世界経済見通しを示したことなどから、米長期金利は再び2%を、ドル円も108円を割り込みました。3日にはさえない米経済指標を受け、米長期金利は一時1.94%まで低下しました。ただ、5日には米雇用統計で雇用者数の伸びが予想を上回ったことを受け、2%台を回復しました。107円台に下落したドル円も、108円台に戻る動きになりました。

▣ 市場は今後4回弱の利下げを織り込み

米国の短期金融市場が織り込む年内の利下げ回数は、足元では2.3~2.4回程度、2020年12月までの利下げ回数は3.7~3.8回程度と、一時より減っていますが、FRBの政策金利見通し(2020年までで最大2回)を上回る状況が続いています(図表3)。

仮に今後、利下げ圧力が再び強まった場合の米長期金利の目安を、利下げ回数の織り込みとの関係から概算した場合、市場が織り込む2020年12月末までの利下げ回数が5回に増えると、米長期金利は1.9%程度、6回に増えると1.7%程度が目安となります(図表4)。

もっとも、1995年7月から96年1月にかけての予防的な利下げ局面では、3回の利下げにとどまりました。一方、足元ではすでに2020年12月末までに4回弱の利下げが織り込まれていることから、米長期金利の一段の低下にはさらなる材料が必要となりそうです。

ちなみに、日本の長期金利は変わらずとして、米長期金利が1.9%まで低下するとドル円は107円前後、1.7%まで低下するとドル円は105~106円程度が目安となります(図表5)。

日銀が7月1日発表した6月の企業短期経済観測調査(短観)の今年度の大企業製造業の想定為替レート(ドル円)は109円35銭。上記の概算を当てはめると、2020年12月末までの利下げ回数が3回の織り込みまで減り、米長期金利が2.2~2.3%程度まで上昇しないと、想定為替レートの水準まで戻らないとの見方もできます。

▣ 投資家心理改善で、ドル円の下落が鈍くなる可能性

他方、ドル円は投資家心理にも左右されます。投資家の不安心理が強まると安全通貨とされる円を買う動きが強まり、後退すると円売りが優勢になる傾向があります。

足元では恐怖指数とも呼ばれるVIX指数(20を超えると投資家の不安心理が強まっていると解釈される)が13ポイント台まで低下するなど、投資家心理が改善する中で、逃避通貨とされる円買い需要が後退しています。そのため、米金利低下に対しドル円は、上記の目安ほど下落しない可能性はあります(図表6)。

しばらくは、7月末の米連邦公開市場委員会(FOMC)をにらみ、利下げの有無、利下げ幅が25bp(1bp=0.01%)にとどまるか、2回分の50bpと大幅な利下げが実施されるかなど、米金融政策をめぐる思わくに振らされる展開が続きそうです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/env/

 

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