消費増税決定/延期で金融市場は
▣ 増税延期観測はやや後退も
5月20日に発表された1-3月期の実質国内総生産(GDP)速報値が2四半期連続のプラス成長となり、10月に予定されている消費税率引上げを延期するとの見方がやや後退しています。とはいえ、消費税率引上げを延期し、衆参同日選に踏み切るとの観測もまだくすぶります。
2012年6月、民主、自民、公明の3党が、5%の消費税率を2014年4月に8%、2015年10月に10%に引き上げることで合意しました。そして2013年10月1日、政府が消費税率引上げを閣議決定し、2014年4月に消費税率が8%に引き上げられました。ただ、消費税率引上げが個人消費を大きく押し下げたことを受け、同年11月に安倍首相は消費税率の再引上げを2017年4月に延期することを表明しました。さらに2016年6月には、「リーマンショックの時に匹敵するレベルで原油などの商品価格が下落し、さらに、投資が落ち込んだことで、新興国や途上国の経済が大きく傷つき、世界的な需要の低迷、成長の減速が懸念される」として、消費税率の引上げ時期を2019年10月に再延期しました。
▣ 消費増税決定/延期時の国内株は
- 2013年10月(増税決定):経済対策への期待などから底堅い展開が継続(図表1)
- 2014年4月(増税):ウクライナ情勢の緊迫化などへの警戒感が広がる中、増税には反応薄
- 2014年11月(増税延期):10月末に日銀が追加の金融緩和に踏み切ったこと、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用方針を見直し、国内株式の比率を引き上げると発表したことに加え、増税延期も安心材料になり、堅調な地合いが継続
- 2016年6月(増税延期):発表前は消費増税延期や財政出動への期待からいったん上昇したものの、発表後は経済対策への期待が後退したことや英国の欧州連合(EU)離脱への警戒などから軟調な動きに
今後は、米中貿易摩擦の激化には注意が必要ですが、最終的な増税の決定、10月の実施については、経済対策などへの期待が広がれば、国内株式の下振れは限定的となる可能性が高そうです。
▣ 長期金利は
- 2013年10月(増税決定):安心感が広がり低下する動きに(図表2)
- 2014年4月(増税):増税には反応薄で、良好な需給を背景にじりじりと低下
- 2014年11月(増税延期):「日本国債の信認に影響する」との見方などから、一旦上昇したものの、景気条項(景気が悪化した場合は消費増税延期)が削除され、財政健全化に配慮が示されたことから、国内債は買いが優勢になり、長期金利は低下。ただ、翌年1月には日銀が追加緩和に動かなかったことを嫌気して、長期金利は上昇
- 2016年6月(増税延期):良好な需給が継続する中、財政不安は広がらず、市場の反応は限定的も、英国のEU離脱への警戒や日銀がマイナス金利の深掘りなどに動くとの観測から、長期金利はマイナス圏で低下。ただ、その後は日銀がETF(上場投資信託)の買入れ額のみを増額する一方、長期国債の買入れ増額やマイナス金利の深掘りに動かなかったことから、上昇
現在は、財政悪化懸念から国内金利に上昇圧力が掛かってはいないこと、日銀の追加緩和観測も広がっていないことから、増税実施、延期どちらの判断がなされても、短期的な国内金利への影響は限定的となりそうです。
▣ Jリート(不動産投資信託)は
- 2013年10月(増税決定):消費増税への警戒感に加え、米国での財政協議をめぐる米議会の対立を受け、政府機関の一部が閉鎖されたことなどから、やや軟調な動きに(その後は、米政府機関閉鎖が解除されたことや米国の金融緩和が長期化するとの見方から持ち直し)(図表3)
- 2014年4月(増税):長期金利が落ち着いて推移する中、賃料の上昇期待などから堅調な地合いが継続
- 2014年11月(増税延期):10月末の日銀の追加金融緩和や増税延期を好感し堅調な動き
- 2016年6月(増税延期):安倍⾸相が消費増税延期を表明も、経済対策の規模に言及しなかったことから、押し上げ材料にはならず
今後、増税が決定されても、低い長期金利や良好なオフィス市況を背景に、底堅く推移することが見込まれます。他方、増税延期は安心材料ですが、日銀の金融緩和や追加の経済対策などが加わらなければ、押し上げも限定的となる可能性があります。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/env/
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