20周年を迎えたユーロの行方

2019/02/13 <>

経済成長率は低下、欧州統合には多くの障害

今年1月、ユーロは導入20周年を迎えました。しかしこれを盛大に祝うわけにはいきません。多様な国の通貨・金融政策を統合するという、この大胆な試みは大成功だった、とはまだ言えないからです。

特に今年は(今年も?)、ユーロ圏にとって試練の年です。全体の総生産(GDP)成長率は1%半ばと、5年ぶりの低成長が予想されます。「景気低迷は一時的」とはもう言えません(図表1)。ユーロ圏や欧州連合(EU)の統合深化を目指す国・勢力とそれらの懐疑派による、鋭い対立も続きそうです。

最大最強を誇るドイツは、輸出主導の構造が裏目に

今般の特徴はドイツ経済の失速です。ユーロ圏最大の経済国であり、雇用の柔軟化などは、ほかの諸国でも構造改革の模範とされてきました。よってドイツの変調は、ユーロ圏の変調と同義と言えます。

ドイツが深刻な不況に陥る可能性は高くないでしょう。財政が黒字なので、減税や公共投資で景気を刺激する余地が大きいからです。ただ、経済を支えてきたのは、世界最強のブランド力を生かした輸出です。そのため中国経済の減速や米国の保護主義が強まると、輸出主導の構造が弱点に転じかねません。

フランスの「黄色いベスト運動」には称賛すべき部分もあるが

ユーロ圏でドイツに次ぐ経済規模を有するフランスでも、不安要素が山積しています。最近の景況感に影を落としているのが、「黄色いベスト」を着用した人々による反政府デモです(昨年11月から激化)。

この運動は、政府が目指す燃料税増税への反発がきっかけです(抗議を受け増税は延期)。増税への反発を行動で示すこと自体は、世界中の国々が見習うべきです。ただ、これによりマクロン大統領が進める財政健全化や構造改革が挫折することになれば、財界や金融市場では大きな失望が広がるでしょう。

ユーロ危機が起こるとすれば、震源地はやはりイタリア

ドイツやフランスは、リセッション(2四半期連続のマイナス成長)を辛うじて免れています。一方、圏内3番目の経済規模を持つイタリアについては、昨年後半のリセッション入りが確認されました。

イタリアの不況はまだ浅いものの、もしこれが深刻化すれば、財政のさらなる悪化をもたらします。その場合、財政規律を求める欧州委員会との不和が避けられません。しかも現在のイタリア政治を主導しているのは、EU懐疑派であるサルヴィーニ副首相です。引き続き、イタリアからは目が離せません。

今後も試練の連続だが、「ユーロの分裂または解体」の可能性は極めて低い

こうした状況では、欧州中央銀行(ECB)は金融緩和策を続けざるを得ません。年内の利上げは難しそうです。よって米国の景気減速が鮮明になるまで(年央か)、ユーロ安・ドル高基調が予想されます。

ただしユーロ圏では、イタリアを含め単一通貨への支持がむしろ高まっています(図表2)。英国の迷走をみて、反EUの非現実性に気づいた人も多いのです。したがってユーロは、多くの問題をかかえながらも存続するはずです。少なくとも10年後には、30周年を(控えめに)祝うことになるでしょう。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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