ベネズエラ危機と原油価格

2019/02/06 <>

「打倒! 独裁・反米・社会主義」

南米の石油大国ベネズエラは、かねてより米欧メディアの格好の標的です。マドゥロ大統領のもとで政権が腐敗し、民主制が損なわれ、反米が根強く、そして何より社会主義が標ぼうされているからです。

この国が今、危機と希望の間で揺れ動いています。「独裁」が倒され平和裏に政権が移行するかどうか、の瀬戸際に立っているのです。首都カラカスでは先週末、数万人規模の反政府デモが行われました。今後の展開は、原油市場だけでなく多数の国を巻き込んだ国際関係にも、大きな影響を及ぼしかねません。

特権層の利益独占で経済が破たん

ベネズエラは世界一の原油埋蔵国です。しかし最近の経済は壊滅的で、国内総生産(GDP)は5年間で4割超も減りました(図表1)。計測困難となったインフレ率は、年率100万%とも言われます。

経済の破たんは、石油産業などを政権と軍部が私物化した結果と考えられます。特権層が権益をどう分けるかが最大関心事となり、能力や専門知識が軽視されたのです。民間の経済活動は厳しく制約され、投資が疎かになりました。また、物品の不足と野放図な通貨供給で、インフレが止まらなくなりました。

「正統な大統領」をめぐる闘争に

国民の多くはマドゥロ大統領を見放し、大量の移民・難民が発生しています(図表2)。それでも政権が生き長らえてきたのは、軍部の忠誠、反政府運動の分断、ロシアや中国などの金融支援、によります。

しかし、熱意と寛容さを併せ持つリーダーの登場で、状況が劇的に動き始めました。グアイド氏という35歳の国会議長が、1月、自分が正統な大統領だと宣言したのです。マドゥロ氏は不正選挙で大統領になったので合法性を欠く、というのです(憲法上、大統領が空席の場合は国会議長が暫定大統領に)。

米国の危険な賭け

直ちにグアイド氏の宣言を承認したのが米国です。そしてマドゥロ政権の収入源である国営石油会社に、制裁を発動しました。結果、ベネズエラから米国への原油輸出が減り、原油高要因となっています。

これは米国の賭けです。石油利権を狙う米国の陰謀がベネズエラを苦境に陥れた、とのマドゥロ氏の主張に、もっともらしさを与えるからです。米国とロシアの対立が激化する恐れもあります。それでも米国(および欧州主要国など)の承認は、グアイド氏を勇気づけています(日本政府は「動向を注視」)。

いずれにせよ、原油価格への影響は限られる見込み

ただし、マドゥロ氏は失脚確実、とまでは言えず、米欧メディアなどはまだ喜べません。軍部の忠誠心は意外に強い上、ロシアやトルコなどが同氏を強く支持しているからです(ただ、中国は慎重な支持)。

とはいえ、ベネズエラの産油量は昨年までにすでに落ち込んでいるため(図表1)、一層の生産減による原油高は、限られたものにとどまる見込みです。一方、グアイド氏の手腕は未知数なので、同氏が政権を握ったとしても、経済の正常化・産油量の急回復により原油急落、との展開も当面はなさそうです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融市場の注目材料を取り上げつつ、表面的な現象の底流にある世界経済の構造変化を多角的にとらえ、これを分かりやすく記述します。
<本資料に関してご留意していただきたい事項>
※本資料は、ご投資家の皆さまに投資判断の参考となる情報の提供を目的として、しんきんアセットマネジメント投信株式会社が作成した資料であり、投資勧誘を目的として作成したもの、または、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。
※本資料の内容に基づいて取られた行動の結果については、当社は責任を負いません。
※本資料は、信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。また、いかなるデータも過去のものであり、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。
※本資料の内容は、当社の見解を示しているに過ぎず、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。記載内容は作成時点のものですので、予告なく変更する場合があります。
※本資料の内容に関する一切の権利は当社にあります。当社の承認無く複製または第三者への開示を行うことを固く禁じます。
※本資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第338号
加入協会/一般社団法人投資信託協会 一般社団法人日本投資顧問業協会