米国取材報告①-それでも米国は「冬の時代」へ

2018/11/15 <>

中間選挙の結果は、金融市場・米国・世界にとってポジティブ

11月前半、米国(ニューヨークなど)を訪れました。紅葉の鮮やかな季節でしたが(写真1)、往訪の主な目的は、もちろん中間選挙(11月6日)後の米国政治・経済についてヒントを得ることです。

この選挙では、周知のとおり下院は民主党、上院は共和党が過半数議席を制しました。これに対する現地の反応は、総じて言えば「ひとまず安ど」というものです。たしかにこの結果は、金融市場の安定という観点から、あるいは米国や世界の政治にとっても、ポジティブにとらえるべきものと言えます。

余計な減税の阻止は、金融市場の安定に資する

もしトランプ大統領の属する共和党が従来どおり上下両院を制していたら、米国の株価などはもっと上昇していたかもしれません。共和党一党支配のもとでは、さらなる減税などが想定されたからです。

しかし最近の金融市場における問題は、「米国の好景気・他国の景気減速」という歪みです。それは米金利上昇・ドル高を通じ新興国などからの資金流出をもたらします。こうしたとき、米国がさらに景気を刺激すれば歪みが拡大します。よって、「ねじれ議会」のもとで追加減税は阻止された方がよいのです。

下院を制した民主党が、独裁に対する防波堤に

とはいえ中間選挙の結果が示す最大の意味は、「米国の民主主義が守られた」点にあります。民主主義の真髄は相互のチェックとバランスです。その意味でも、「ねじれ」は決して悪いことではありません。

とりわけ現在は、大統領の暴走に歯止めをかけるべき議会が、役割をほぼ放棄しています。共和党議員がトランプ氏に媚を売っているのです。最高裁判所の判事も、トランプ氏の考えに沿う保守派で固められつつあります。それだけに下院を制した民主党が、独裁に対する防波堤となることが期待されます。

米国の民主主義は、世界に希望を与える

それは民主主義を信じる人々の希望でもあります。かつての威光は衰えたとはいえ、米国は民主主義の手本です。中間選挙でみせた米国のバランス感覚は、世界中のリベラル派に勇気を与えるでしょう。

トランプ氏は、白人保守層の本音をわかりやすく表現します。これが根強い人気(写真2)の源泉なのですが、人種などによる偏見を助長し、多様性の尊重という民主主義の本質を損ないます。それは他国の独裁政権を勢いづかせるので、米国の過度な保守化は望ましくない、と考えるのがリベラル派です。

しかし、米国第一主義と米国社会の分断は続く

米国は元来、開放性と閉鎖性が並存する国です。ところが2001年の同時多発テロ(写真3)を経て均衡が崩れ、閉鎖性が前面に出てきました。その表れである米国第一主義が変わる兆しはみられません。

好景気に沸く米国は、華やかな秋を満喫し、中間選挙も良い結果でした。ただ、2年後の大統領選挙ではトランプ氏が再選を果たすとみる人が増えています。しかし国内でも「敵と味方」を峻別する同氏の態度では、社会の分断を深めるだけです。やはり米国は、「冬の時代」を迎えつつあるのでしょうか。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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