ブラジルの「極右」を金融市場は大歓迎

2018/10/11 <>

改革期待からブラジルの通貨・株価が一旦急上昇

南米の経済大国・ブラジルでは、「新興国不安」に逆らい通貨や株価が堅調です(図表1)。9月半ば以降の上昇率は、いずれも10%超に達しました(ただ、米国株が急落した昨日はブラジル株なども下落)。

ブラジルは好景気とは言えないものの、経済危機が切迫しているわけではありません。足元のインフレは年率4%程度と、この国としては低水準です。経常赤字も抑えられ、外貨準備は潤沢です。同じ南米のアルゼンチンなどに比べ、経済の基礎が強いのです。さらに、金融市場でにわかに高まっているのが政権交代への期待です。それが実現すれば、経済改革(財政健全化など)が期待できるというのです。

汚職スキャンダルで国民の政治不信が爆発

その期待は10月7日の大統領選挙(第1回投票、図表2)でますます高まり、週明けの通貨・株価急伸をもたらしました。右派・社会自由党のボルソナロ氏が首位の得票率(46%)を獲得したのです。一方、第2位となった最大左派・労働党のアダジ氏は29%の得票率と、予想外の大差がつきました。

10月28日に行われる決選投票でも、ボルソナロ氏勝利の可能性が高いでしょう。ブラジルでは、国営石油会社などをめぐる汚職が多くの議員や元大統領を巻き込んでいます。それが既存政治への反感に火をつけ、汚職防止、治安改善、景気回復を掲げる非主流派、ボルソナロ氏の人気を呼んでいるのです。

極右による「民主主義の劣化」は不可避とみられるが・・・

問題は、ボルソナロ氏の思想的立場です。同氏を有名にしたのは、黒人、女性、性的少数者に関する侮蔑的な過激発言の数々です。また、軍事政権時(1985年まで)に軍人だった同氏は、当時の体制を今も賛美しています。そのため、「極右」「ポピュリスト」「ブラジルのトランプ」などと呼ばれます。

米英の主要メディア(特にリベラル系)が同氏を酷評するのは、当然の反応でしょう。自由な民主主義の劣化という世界的潮流を表わすものとして、多くの知識人らはボルソナロ氏を嫌悪しているのです。

経済政策の方針は市場原理主義に近い

他方、ブラジルに対する金融市場の期待にも、もっともらしい理由があります。よって、極右が突きつける民主主義への脅威を無視して通貨や株価が一旦急上昇したのは、市場の反応としては自然です。

というのも同氏(というより同氏の筆頭経済顧問。ただ、この人物については昨日、不正資金疑惑が浮上)が示す経済政策には、市場が好むものが並んでいるからです。手厚すぎる年金制度の改革、国営企業の民営化などです。ブラジル経済の課題は財政再建であり、「小さな政府」が待望されているのです。

ブラジルなどにみる金融市場の現実

ただし極右への拒否反応も根強いので、中道派支持層がアダジ氏支持に回れば決選投票でボルソナロ氏が敗れるかもしれません。またボルソナロ政権が誕生したとしても、市場が期待する政策を実行する保証はありません。本当にポピュリスト(大衆迎合者)だとすれば、年金カットなどは難しいでしょう。

いずれにせよ、ブラジルの通貨高・株高から教訓が二つ確認されました。第一に、新興国だからといって一律に投資対象から外す必要はなく、経済の基礎が強いかが鍵です。第二に、「民主主義の劣化」が株価下落を招くとは限りません。このことは、過去2年間における日米の株価上昇をみても明らかです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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