次はアルゼンチン危機か(しかし世界の危機ではない)

2018/09/05 <>

不本意な「通貨安競争」

現在、通貨が反射的に売り浴びせられる国としては、トルコとともにアルゼンチンが挙げられます。

通貨ペソは先週、2日間で約20%も下落しました(対ドル)。年初来では約50%の下落と、トルコリラを追い越しました(図表1)。アルゼンチンの民間債務のうち外貨建て比率はトルコに比べ低いものの、国債は半分以上が外貨建てです。それらを返済する能力が疑われているのです。すでに国際通貨基金(IMF)による500億ドルの融資枠を得ていますが、先週、融資の前倒しを要請する旨をマクリ大統領が突如表明しました。これが、財政状態は従来の想定より悪いのでは、との憶測を呼んでしまいました。

トルコとは違うはずだが・・・

アルゼンチンとトルコには高インフレなど共通点もありますが、多くの相違点にも着目すべきです。

特に市場との向き合い方です。通貨暴落は米国の不当な攻撃のせい、などと責任を外部に転嫁するのがトルコのエルドアン大統領です。インフレを抑える上で必要な利上げにも抵抗しています(ただ、来週に利上げの可能性あり)。それに対しアルゼンチンは、自国の財政赤字やインフレ体質のほか、市場への説明の仕方にも問題があった点を素直に認めています。また、利上げも大胆に行っています(図表2)。

疑念と憶測が消えないのはなぜか?

そうした「市場寄り」の対応にもかかわらず、ペソはまだ下げ止まりません。今週には財政再建策(輸出に関する課税や省庁簡素化など)が示されましたが、市場からの信頼を取り戻すには至っていません。

市場の疑念や憶測には全く根拠がない、とは言えません。アルゼンチンは来年10月に大統領選を控えているので、国民に不人気な増税などを本当に行えるのか、といった疑問がわくのは当然です。また、アルゼンチンは債務不履行をたびたび起こします(直近は2001年)。その印象が市場では根強いのです。

「財政再建と国民生活のバランス」が課題

ペソの行方は、財政再建の実効性と市場のムード次第でしょう。問題は、マクリ政権がどの程度の本気度を示せば市場が納得するのか、です。「米国の株高や金利上昇に伴う、新興国から米国への資金移動」という単純なストーリーに市場がいつまで固執するのか、も不確かです(米国の利上げペースも重要)。

IMFへの信認も試されます。ラガルド専務理事のもとで、最近のIMFからは柔軟な姿勢も見受けられます。被支援国の国民に痛みを与える財政緊縮策に関し、一律的な強要は避けたいという思いがうかがえるのです。正しい方向とはいえ、人々の生活に無関心な市場の支持が得られるかは別問題です。

市場の理性は保たれており、無差別の新興国売りではない

市場のムードや判断力は頼りないものですが、適切な動きもみられます。8月前半のトルコリラ暴落時とは異なり、先週のアルゼンチンペソ暴落時には、日本株など株式市場は比較的冷静だったことです。

通貨では、ブラジル、南アフリカ、インド、インドネシアなどの下落が目立ちます。しかし通貨安は輸出に有利、という事情もあり、株価はさほど下がっていません(図表1)。先週、インドの通貨は史上最安値に下がった一方、株価は逆に最高値をつけました。インドネシア株は年初来ではマイナスですが、底堅い景気が見直され、海外勢は先週これを買い越しました。こうした点では、市場も案外合理的です。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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