オーストラリアの政変と豪ドルの今後
経済は1流、政治は3流
かつて日本は、「経済は1流、政治は3流」と言われたものです。現在この形容が当てはまる国は、オーストラリアでしょう。経済ではプラス成長が続く一方、政治への信頼度は低いのです(図表1)。
先週には与党である自由党の中で「政変」が勃発し、豪ドルが一時下落しました。同党を率いてきたターンブル氏が権力争いに敗れ、首相職を辞任したのです。新首相には財政規律を重視するモリソン前財務相が就任しました。これを受け豪ドルは一旦下げ止まりましたが、政治の混乱はまだ続くでしょう。
党内クーデターの構図
2007年以降、オーストラリアでは3年の任期を全うした首相が一人もいません。ターンブル氏の場合も同じ自由党のアボット氏を退陣させて(党首選で勝利)、首相の座を奪ったという経緯があります。
自由党で「党内クーデター」が起こりやすいのは、穏健派(中道的)と保守派(右寄り)の対立が激しさを増しているからです。今回の政変は、保守派のダットン内務相やアボット氏らが、穏健派とされるターンブル氏の追い落としを画策した、との構図です(ただし、ダットン氏は党首選でモリソン氏に敗北)。アボット氏にはターンブル氏への遺恨もあるでしょう。まさしく、国民不在の権力争いです。
穏健派と保守派の深い亀裂
モリソン新首相については、社会・文化面では保守的です(移民・難民に対する厳しい抑制姿勢など)。とはいえ財務相としてターンブル政権を支えた人物なので、経済政策では同政権の方針を踏襲するとみられます。金融市場がモリソン氏の首相就任をひとまず歓迎したのは、もっともな反応と言えそうです。
しかし、自由党内の亀裂を修復するのは難しいでしょう。例えば、温暖化問題をめぐる穏健派(クリーンエネルギー化を推進)と保守派(石炭産業を優遇)の対立は相当深刻です。有権者はそうした内部抗争を当然嫌気します。「政変」後の世論調査によると、野党・労働党の支持率が56%へ高まりました。
経済面の不安要素も多い
よって来年5月までに行われる総選挙では、労働党が勝利を収める可能性が高そうです。政権交代観測は、税制などに関し不確実性を強めます。そのため今後、企業の投資や雇用が慎重化しかねません。
経済が絶好調であれば、政局は景気にさほど悪影響を及ぼしません。しかしプラス成長を続けているといっても、今のオーストラリアには多くの不安要素があります。一番の輸出先である中国の景気減速や米中貿易摩擦、資源価格の低迷、住宅市場の弱含み、賃金の伸び悩み、家計債務の積上がりなどです。
RBAの利上げは一段と遅れる見込み
こうした中での政局混乱は、市場の最大関心事である金融政策にも影響を与える可能性があります。
現在の政策金利は歴史的な低水準なので(図表2)、オーストラリア準備銀行(RBA)による次の行動は恐らく利上げでしょう。しかし経済・政治の懸念材料に鑑みれば、利上げ開始は早くても来年終盤と予想されます。世界経済の動向次第とはいえ、次の行動は利下げかもしれません。したがって、豪ドルの大幅上昇は当分期待しにくいのが実状です。オーストラリア経済の勢いも、もう完全には戻らないかもしれません。「3流の政治」が長引けば経済も衰えていくことは、日本が実証したとおりだからです。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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