世界経済の見通し-景気格差と政治に着目

2018/05/23

「貿易戦争」がひとまず回避され、ムードが若干改善

金融市場のムードは、2月に比べると落ち着いています。NYダウ、日経平均などの株価指数は、昨年末比で一時プラスに転じました。良い材料は、米中貿易戦争が避けられる可能性が高まったことです。

市場が楽観姿勢へ戻っていくのは、世界経済はあくまでも堅調、と信じられているからです。それがまだ説得力を持つのか、各国の成長率(図表1)などをもとに、ここで簡潔に確認しておきましょう。

米国-堅調な経済が金利上昇(緩やかであれば)とドル高を正当化

米国の1-3月期実質国内総生産(GDP)は、前期比年率2.3%増となりました。昨年後半は約3%だったので、表面的には減速です。ただ、最も重要な個人消費は依然として堅調です。実際、4月の小売売上高は前年比4.7%増となりました。4-6月期のGDPは、恐らく3%前後の伸びへ戻るでしょう。

米国の10年国債利回りは、ついに節目の3%を超えました。そうした中でも株価が上がっているのは、心強いことです。金利上昇やドル高は堅調な米経済の反映、という考えに、市場が慣れてきたようです。

ユーロ圏-イタリアの政治不安がユーロを下押しする可能性も

ユーロ圏の1-3月期のGDPは前期比年率1.6%増と、低めの伸びにとどまりました。ただ、これは歴史的な寒波やストライキなど、一時的な影響を受けています。よって4-6月期は持ち直すでしょう。

しかし、その勢いは米国ほどではありません。そのためもあり、先月からユーロ安・ドル高が進みました(図表2)。イタリアの政治(反既存勢力の政権発足か)次第では、一層のユーロ安も考えられます。

中国-適度な経済成長のもとで、人民元は相対的に安定

一方、中国のGDPは1-3月期まで3期続けて前年比6.8%増を記録しました。これを額面どおり信じる人は少ないとはいえ、5%程度の成長率は続いている模様です。ただ大気汚染対策として、今後は工業生産の抑制などが不可避です。これは成長率の鈍化を伴いますが、コントロールされた景気減速です。

景気の安定などを背景に、人民元についても、ユーロや円、ほかの新興国通貨に比べると、その安定感が際立っています。米国の金利上昇にもかかわらず、中国からの資金流出は加速していないのです。

日本-「経済の低迷」と「政治の劣化」が過度な円高を防ぐ

最後に日本ですが、1-3月期GDPは前期比年率0.6%減と、9期ぶりのマイナスとなりました。その言い訳は、いつものとおり「天候不順(による外出などの減少)」です。加えて、輸出も一旦減速しました。天候はさておき、海外経済の拡大基調を踏まえれば、4-6月期は小幅なプラス成長へ戻りそうです。

ただ、景気が急回復する根拠は見出せません。しかも政治では、「加計問題」が泥沼化しています。とはいえ、国力や信認の低下は通貨安(円安)要因であり、短期的には日本株の追い風となり得ます。

米朝首脳会談が成功すれば、一段の株高へ

まとめれば、今年の世界経済は昨年並みの成長率(3%台後半)を維持、という年初の見通しを大きく変える必要はなさそうです。ただしそれが続く条件は、誤った政策(貿易制限など)や紛争の回避です。

次のイベントは、来月の米朝首脳会談です。トランプ大統領は突然「世界の平和」に目覚めたようなので、もし予定どおり行われれば会談は友好的なものになるでしょう。その場合、日本株も一段の上昇が期待できます。それは厳しい試練が続く安倍政権にとって、どちらかと言えば朗報となるはずです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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