シリア情勢をどう分析すべきか?

2018/04/17 <>

「地上の地獄」

シリアはかつて、遺跡と自然の豊かな国でした。しかし2011年から続く内戦(政府軍vs.反政府勢力)が、これを「地上の地獄」へ変えました。その情勢に対し、金融市場でも急に関心が高まっています。

4月7日には、反政府勢力が残る地域を政府軍が攻撃し、数十人の民間人が死亡しました。その際、条約(シリアも加盟)で禁じられた化学兵器が用いられた模様です。そして14日、それを制裁すべく、米仏英の合同作戦として、シリア政府の化学兵器関連施設3か所を狙ったミサイル攻撃が実行されました(計105発:米軍85発、仏軍12発、英軍8発)。化学兵器の使用は許さない、という意思表明です。

金融市場への影響は、現時点では軽微

この空爆に対する金融市場の反応は、総じて冷静かつ軽微です。中東の動乱に反応しやすいのは原油(理屈上は、供給途絶懸念から原油高に)ですが、攻撃後、その価格はむしろ下落しています(図表1)。

これは、トランプ米大統領が示唆していたほどには大規模な空爆とはならなかったためです。最悪の事態は、シリア政府の後ろ盾であるロシア(およびイラン)と米欧との対立激化でした。それらに配慮して、今回のミサイル攻撃は、シリアに駐留するロシア軍には被害が及ばないよう慎重に行われました。

攻撃自体は正しいが、効果は小さい

この空爆は正しい選択だった、とする見方が米国では優勢です(ただし、英国では首相の独断などへの批判が多数)。背景には、オバマ政権時にシリアの化学兵器を見逃す形となった、との反省があります。

同時に、この空爆の実質的な効果は小さい、という指摘が一般的です。実際、内戦におけるシリア政府軍の優位は、今回の空爆では揺らぎません。化学兵器に焦点を絞ったため、少なくとも「伝統兵器」による民間人の迫害は続くでしょう。これでは、近年最悪という難民危機(図表2)も解決できません。

シリアを取り巻く情勢は、絶望的に複雑

ただ、米欧が「化学兵器による民間人の被害」への制裁に目的を限定したのは、やむを得ません。シリア政府を攻撃する法的根拠が疑わしいからです(米欧の「自衛のため」と言うのは無理)。「正義の所在」もそう単純ではありません。シリア政府やロシアからみると、反政府勢力こそ「テロリスト」です。

また、シリアを舞台に様々な代理戦争が錯綜しているため(例えば、シリア政府側のイランvs.反政府派を支援するサウジアラビア)、情勢は絶望的に複雑です。そもそも中東では、宗派の争いや国家独立の経緯が複雑に絡んでいます。日本人には理解不能なので、朝鮮問題とは異なり、「蚊帳の外」で十分です。

市場は平穏でも、シリアの「地獄」は終わらず

なぜ化学兵器だけ駄目なのか、との疑問を持つ人も多いはずです。これに関しては、毒ガスは風向きなどの影響を受けるため制御が難しく、よって民間人に被害が及びやすい、といった点が挙げられます。

しかし、この内戦ではすでに10万人超の民間人が死亡し、その98%は伝統兵器によるものと推定されます。難民も563万人(内戦前の人口の約4分の1)に達しています。そうした地獄に投げ込まれたシリアの人々にとって、化学兵器の使用時にだけ世界が注目するのは、偽善的にみえるようです。ましてや、「市場への影響」という視点だけでシリア情勢を「分析」できるのは、感情を欠く人だけでしょう。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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