異次元緩和の5年-失敗の理由と日銀の罪

2018/04/04

「2年で2%」のはずが「5年で1%」に

2013年4月4日、日銀は「量的・質的金融緩和(異次元緩和)」を発表しました。「2年程度で2%」のインフレ目標を達成するためです。しかし5年を経た現在、消費者物価の前年比上昇率は1%程度と、目標の半分です(図表1)。目標をこれほど下回るとは、黒田総裁らは全く想定していなかったはずです。

異次元緩和は、日銀が大量の資産(長期国債など)を購入する策です。これに伴う通貨供給(図表2)によって、デフレからインフレへ転換させようとしたのです。そしてインフレ率が高まれば日本経済も活性化する、というのがリフレ派の言い分でした(「リフレ派」を自称する人はもう少なくなりましたが)。

失敗の理由①-金融政策への過大評価       

それが失敗した理由はすでに明らかです。導入5周年を迎えた本日、改めて整理しておきましょう。

第一の理由は、金融政策への過大評価です。リフレ派によれば、デフレ(物価下落)は金融緩和の不足が原因でした。そのため日銀が大胆に緩和を行えばインフレが進み、日本経済は復活する、という妄想に取りつかれたのです。しかし実際には、物価への影響としては金融政策よりも原油価格の方が大きいことが判明しました。また、インフレ率の上がる局面では、実質所得や消費が圧迫されただけでした。

失敗の理由②-円安・株高に対する認識の誤り

金融緩和が円安・株高を促すことはあるでしょう。しかし、それを起点に経済成長とインフレの好循環が起こるわけではありません。これを理解しなかったことが、異次元緩和が失敗した第二の理由です。

円安は通貨価値の低下にすぎず、単純に喜べません。株高については、持続的かどうかが重要です。リフレ派は、金融緩和のおかげで株価が上がったと言います。だとすれば、金融政策が正常化へ向かった途端、株価は急落するかもしれません。そんな危うい株高では、実体経済への好影響は限られます。

日銀の罪-中立性の放棄

人間は不完全なので、失敗するのは当然です。人間は利己的なので、自分や自社を利する政策を熱烈に支持するのも自然でしょう。問題は、中立的であるべき日銀が、偏った立場に肩入れしたことです。

例えば輸出に頼る企業や株式投資の観点からは、円安が好都合です。しかし円安によるインフレは、家計に負担を押しつけます。超低金利については、お金を借りる側は喜びますが、貸す側(預金者など)には迷惑です。そうした利害対立に無関心な日銀は、片方に加担し、円安誘導・超低金利策である異次元緩和を続けています。「国民経済の健全な発展に貢献」という使命を逸脱する、誤った市場介入です。

「忖度」でゆがめられた政策の危うさ 

誤った市場介入は、経済の効率性に加え、社会の公平性を損ないます。そのような異次元緩和の欠陥には、日銀も気づいているはずです。それでもこれを5年も続け、弊害が指摘されても「出口(正常化)」を具体的に語れないのはなぜでしょうか。むろん、円安・株高を誇る安倍政権への「忖度」のためです(ただし、今の日本市場は米国次第なので、出口へ向かったとしても円高・株安が進むとは限りません)。

余計な配慮でゆがめられた政策のもとでも、経済や市場はまだ秩序を保っています。しかし次の5年も何とか乗り切れるのでしょうか。2年先のことすら予想できない日銀には、全くわからないでしょう。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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