米中貿易戦争の本質
ついに貿易戦争へ?
トランプ米政権の政策のうち、今年は経済や市場にとって不都合な部分が前面に出てくるでしょう。
特に「米国第一」の同政権が打ち出す保護貿易策です。実際に今月、鉄鋼・アルミニウムへの関税措置が導入されました。さらに、広い品目にわたる中国製品(最大600億ドル規模、詳細は未定)への関税や、中国から米国への投資に対する規制方針が発表されました。これらは、米中の間で輸入制限が応酬される「貿易戦争」を招きかねません。それをめぐる米国株などの動揺は、当面続くと見込まれます。
覇権の移行
世界同時株安は2月前半にも起こりました。しかし今月の市場混乱が持つ意味は、はるかに深遠です。
2月の株安は、世界的な金融緩和依存から脱する中での過渡的な痛みと言えます。それは重要な転機ではあれ、世界史ではせいぜい注釈で触れられる程度でしょう。これに対し米中の貿易戦争は、「覇権の移行」という大きな章の中で特筆されるべき出来事です。今や中国経済は、規模のみならず質的な面(テクノロジーなど)でも米国に迫る勢いをみせています。こうした勢いを抑えようと、米国はひどく焦っているのです。そのような二大経済国の対決が背景にあるだけに、金融市場も穏やかではいられません。
保護貿易はトランプ氏の中核
かつての余裕を失った米国は、誰が大統領だとしても、中国などを対象とした規制を強めるでしょう。
ただ、トランプ氏のもとでは、それが露骨に現れます。貿易赤字は「負け」と信じる同氏らにとって、保護貿易は中核と言うべき政策だからです。しかしトランプ政権1年目の昨年、米国の貿易赤字は前年比で12.1%も増えました。突出して大きいのは対中国なので(図表1)、同政権の標的となるのは当然です(なお、対日赤字も決して小さくはないため、日本も今後、米国との厳しい通商交渉を迫られます)。
本当の狙いと関税の影響
ただし、米政権も全面的な貿易戦争までは望んでいません。個別交渉に持ち込んで有利な通商条件を勝ち取り、国内の有権者にアピールするのが狙いでしょう。例えば鉄鋼の関税措置については、韓国を除外する代わりに、韓国から米国への鉄鋼輸出量に対し上限を設ける、といった合意を成立させました。
また、もし各国が関税を引き上げたとしても、総生産(GDP)への影響は壊滅的というほどではなさそうです(図表2)。ただ、影響の広がりに関し、確かなことはわかりません。企業は今、国境をまたぐ複雑なサプライチェーン(原材料・部品の調達から生産、販売に至る過程)に依拠しているからです。
「米国の衰退、中国の興隆」は歴史の必然か?
今後の鍵を握っているのは、米国の保護主義に中国がどう反応するかです。中国はすでに対抗措置を示唆しているものの、現時点では、米国に比べると冷静な姿勢です。米国からの輸入(農産物、天然ガス、自動車など)を増やして貿易黒字を減らすのは、豊かさを増す中国の需要にも合致するのでしょう。
つまり、世界的な貿易戦争を回避できるかどうかは、中国の余裕と理性にかかっています。他方、トランプ氏の率いる米国は、世界を混乱に陥れるばかり、という役回りが定着してしまいました。それ自体、「米国の衰退、中国の興隆」という、長い目でみた覇権の移り変わりを示しているように思われます。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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