「森友騒動」が金融市場に突きつける意味

2018/03/23 <>

民主主義の劣化

国有地売却をめぐる「森友騒動」を受けて、安倍政権の支持率が急落しています(図表1)。これは当分の間、日本株の上値を抑える要因の一つとなりそうです。しかしそれは、やむを得ない調整です。株価よりも大切なのは、日本の悪い面が改められ、政治や経済が少しでも健全化へ向かうことだからです。

現在の焦点は、土地取引に関する公文書が改ざんされた経緯です。それが安倍政権の圧力というより役人の「忖度(そんたく)」によるものだったとしても、事態の深刻さは変わりません。忖度を強いられる状況は、異論や反抗を嫌う現政権の性格と無関係でないからです。忖度のあまり言論が委縮したのは、民間でも同じことです。例えば、特に現政権の初期、アベノミクスを批判しにくいムードが広がったのです(それに流されない人もいましたが)。そうした「自由の後退」は、「民主主義の劣化」と同義です。

米国の国際的地位も低下

戦後、日本を民主主義へ導いたのは米国でした。ところが今、米国の民主政も混乱を極めています。

実際、トランプ政権が発足して14か月しか経っていないのに、当初の主な側近は、解任や辞任のため、ほとんど残っていません。最近では、国際派とされたゲーリー・コーン氏(国家経済会議委員長)らが辞任しました。トランプ氏も異論に不寛容なので、自分に媚びない人とは関係が悪化するのです。

周りを同調者で固めたトランプ氏は、保護貿易(中国製品への高関税など)という長年の主義を実行しつつあります。これはどの国にも不利益を及ぼすので、世界的に株価を圧迫するでしょう。それ以上に懸念すべきは、この独善的な大統領のもとで、米国の地位が着実に蝕まれていくことです(図表2)。

中国やロシアを非難できるのか?

それを好機と捉えているのは、中国やロシアです。中国では今月、全人代(国会)が開かれ、「現代の社会主義強国」「偉大な中華民族の復興」といった目標が宣言されました。西洋とは異なる経済発展の方式を目指す、という意気込みの表明です。また、習近平氏への権力集中も確認されました。欧米メディアは「専制的」と批判しますが、米国流民主政治の混乱をみた中国の自信は、全く揺るがないでしょう。

ロシアでは、今月18日の大統領選でプーチン氏が圧勝しました(通算4期目)。ただ、現政権の政敵排除やメディア統制が寄与したほか、不正選挙の疑いもあります。しかし大統領が暴走する米国や民主主義の劣化した日本は、ロシアの「後進性」に対し、高みから非難する資格を有しているのでしょうか。

メディアと金融市場の責任

すなわち、形式的な政治体制の違いは、さほど本質的なものではありません。万国に共通する政治の本質は、国内における権力闘争です。そんな現実をみると、政治不信が広がるのは当然だと言えます。

しかし、所得移転や特権をもたらす経済政策を通じ、政治は生活に大きな影響を及ぼします。そのため政治に無関心ではいられません。政権の意向を忖度した言論も不適切です。日本の民主主義の劣化は、円安誘導策にすぎないアベノミクスを礼賛した、メディアや金融市場にも責任があります。正当な批判の不足こそが、現政権の「おごり」を助長したのです。森友騒動を契機に、そういった問題を是正することが必要です。それに失敗すれば(=真の自由を獲得できなければ)、日本経済の将来は暗いでしょう。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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