政府・日銀が学ぶべき教訓

2018/02/14 <>

主体性なき日本

世界での日本は、外交ばかりでなく経済でも、主体性や存在感を発揮できずにいます。先週の日本株急落も、直接的には米国の動きに追随したものです。実体経済についても、海外次第の面が濃厚です。

それは、本日発表された国内総生産(GDP)をみてもわかります。これによると、昨年の年間成長率は1.6%と、日本としては悪くありません(図表1)。ただ、世界経済の全体的な成長のおかげです。

不自然な円安が輸出を補助

実際、昨年の実質輸出は前年比6.8%増と、大きめの伸びを示しました。特に中国などアジア向け、および米国向けの輸出が好調です。輸出先の景気が良いからですが、為替相場も多少は関係しています。

ドル円相場は足元107円台まで下がったとはいえ、理論値(購買力平価によれば100円を大きく下回る水準)に比べると、まだ大幅なドル高・円安水準です。これだけ不自然な通貨安が続けば、さすがに日本企業の価格競争力が高まります。海外で値下げをしても、円換算の売上を維持できるからです。

何のための輸出?

しかし輸出が増えても、それだけでは国民の豊さが増したことになりません。問題は、実質の(つまり物価上昇分を控除した)賃金が増えているか否かです。それが減っているのに輸出が増えているとすれば、より少ない実質賃金で、より多くの物やサービスを外国人向けに生産している、ということです。

そうした残念な状況になっているのが、最近の日本です。事実、昨年の実質賃金は前年比マイナス0.2%となりました(図表2)。名目の賃金は増えているものの、円安などでそれ以上に物価が上がっているからです(食品やエネルギーなど)。実質賃金が顕著に増えない限り、消費の力強い回復は期待できません。昨年の消費は前年比1.1%増でしたが、消費税増税で消費が落ち込んだ後としては、弱い回復です。

黒田氏の続投は合理的

こうした中、黒田日銀総裁の続投が固まりつつあるようです(4月から2期目(1期は5年)に突入)。

安倍政権には合理的な選択です。同政権が望むのは、円安と株高に尽きるからです。黒田氏のもとで日銀が超金融緩和を続ければ、円高が一方的に進むのを当座は抑制できるかもしれません。金融緩和で通貨価値が毀損されれば、ほかの通貨と比べた価値が下がる(円安)はずだからです。そして円安が続けば、技術面の優位性が低下した輸出企業の業績を、しばらく助けることができます(家計の犠牲で)。

「緩和相場の終わり」にどう向き合うのか?

しかし政府・日銀は、先週の世界同時株安から教訓を学ばねばなりません。金融緩和に頼った相場は、いつか終わるということです(この世界株安は、米国の「脱・低金利」観測が引き金)。そして、不自然な相場は必ず修正を強いられる、ということです(1月までの米国株上昇は、やはり行きすぎでした)。

金融緩和に最も頼っているのが日本であり、為替は不自然な円安水準です。しかし、市場を歪め続けることはできません。よって黒田氏の2期目には、市場が落ち着いた局面で、正常化(資産買入れの縮小や利上げ)を進めるのが適切です。それが遅れるほど歪みが蓄積され、将来、日本発の金融危機を招く可能性が高まるからです。そのように全く名誉でない形で、日銀は存在感を発揮したいのでしょうか。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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