世界同時株安の背景と当面のポイント

2018/02/06 <>

米国発、世界同時株安

この週明け、米国株が急落しました。2月5日のNYダウは前週末比1,175ドル安と、1日の下落幅は史上最大となりました(下落率は4.6%と、2011年8月以来の大きさ)。これを受け日経平均株価も急落し、本日終値で1,071円安(前日比4.7%安)です。円高も進み、ドル円は現在108.8円近辺です。

昨年からの株高を踏まえれば、当然の調整かもしれません。堅調な実体経済に鑑みれば、今こそ投資の機会、とみることも可能かもしれません。しかしどの水準で、いつ下げ止まるのか、誰にもわかりません。よってこの局面では、極端な行動(集中的かつ多額の売買)をなるべく控えるのが適切でしょう。

株価急落の背景-インフレ懸念と金利上昇、トランプ政権の失策

今回の世界株安(図表1,2)は、米国の長期金利(10年国債の利回り)上昇が主な背景です。金利の急上昇は、一般に株安要因とされます。金利上昇で債券の魅力が増し、資金が株式から債券へシフトすると考えられるからです。かつ金利の上昇は、資金調達コストの増大を通じ、企業収益を圧迫します。

金利上昇を招いたのが、米国の賃金増です(1月の平均時給が前年比2.9%増と、2009年6月以来の大幅増)。「賃金増→消費増→インフレ率上昇→金利上昇」と連想されるからです。また、トランプ政権の減税策で財政赤字の拡大が確実、との背景もあります。(国債の発行増→国債の値下がり(利回り上昇))。

そもそも今の米国で大型減税を行うのは、理屈に反しています。すでに完全雇用(人手不足が問題になる状況)に近い米国で景気がさらに過熱すれば、インフレという弊害をもたらしかねないからです。

トランプ政権は金融政策面でも判断を誤りました。米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン氏を、議長職から外したのです。今月に新議長となったパウエル氏も尊敬される人ですが、手腕は未知数です。

冷静さを保つべき理由-インフレと金利上昇は限定的、実体経済は堅調

しかしこの株価急落は、上昇しすぎた相場の調整であり、パニックに陥るべきではないと思われます。

第一に、米国のインフレ率が一方的に上昇する可能性は低いでしょう。単月の実績だけで賃金増が加速したとは判断できません。機械化やグローバル化の中、賃金が上がり続けるとは考えられないのです。

第二に、米国の長期金利は政策金利にも影響されますが、パウエル議長は、多少のインフレでは、(株価を強く圧迫するような)利上げを急がないはずです。さらに、株式からの資金移動は国債の値上がり要因です(利回り低下)。実際、米長期金利は昨日低下に転じ足元2.7%近辺と、歴史的には低水準です。

第三に、米国の実体経済は堅調で、例えば昨年10-12月期の企業決算は、現時点で約8割が市場予想を上回っています。インフレや金利上昇が好景気に沿ったものならば、本来、株安材料ではありません。

注視すべきポイント-インフレ指標、FRB

日本市場は米国次第ですが、長期金利は現在0.07%と、日銀の政策や低インフレのため超低金利のままです。そうした中、金利に敏感なJリート(不動産投資信託)の下落率は、相対的には小さめです。

ただし、米国のインフレ懸念は行きすぎだと確信するには、今後のデータを待たねばなりません。利上げを急がない、とのFRBのアナウンスも必要でしょう。よって当面、米国のインフレ率と長期金利(3%台まで一気に上がれば恐らく危険信号)を中心に点検しつつ、謙虚な姿勢で市場に対峙すべきです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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