「米国の今」に対する率直な評価

2017/12/21

「光か、闇か」 

1年ぶりに米国を訪れました(写真1,2)。呼び起こされたのは、この国への愛憎半ばする感情です。

これほど刺激に満ちた国は、ほかにありません。自由な環境から生まれるその活力は、今後も世界に光を与えるでしょう。しかし、行きすぎた個人主義は心の闇をもたらし、テロや犯罪を引き起こします。

好景気と株高は続くのか?

米国の景気は、表面的にはかなり良いようです。これは、エコノミストから街の人まで、多くの人のほぼ共通した見方と言えます。景気判断がこれだけ一致することは珍しいので、少し驚かされました。

ただ、浮かれた様子ではありません。日本同様、あくまでデータ上の好景気です。株価は上がっているものの、割高すぎないか、慎重に論じられています。調子に乗りすぎた金融危機前の記憶が、まだ残っているのです。冷静さが保たれている限り、来年も(今年ほどではないにせよ)、株高は続くでしょう。

昨年との大きな違い

確実なのは、昨年の今頃に比べ、ムードが安定したことです。当時はトランプ氏が大統領選に勝利した直後でした。これをどう解釈すべきか、その後に何が起こるのか、見当がつかない状況にありました。

今後もトランプ氏は、常軌を逸した言動を行うでしょう。それでも、同氏一人の力で米国が激変することは、まずあり得ません。これが確認された今、金融市場は「トランプ離れ」を遂げつつあるのです。

税制改革の勝者は?

唯一期待されているのは、やっと成立する見通しとなった税制改革です。税制が変われば必ず勝者と敗者が生じます。そして今次改革の柱は法人税減税なので、勝者は主な企業、富裕層、株式投資家です。

もっとも、この改革で経済成長率が劇的に高まるとみる知的な人は、ほぼ皆無です。インフレ率は徐々にしか上がらないだろう、との見方も共有されています。とはいえ、そうである以上、米国は利上げを急ぐ必要はありません。長期金利もさほど上がらないでしょう。株式市場には極めて心地よい環境です。

不人気な改革にこだわる理由

ただし、目先の利益に夢中になる株式市場とは異なり、米国民全体では、この税制改革を支持する人はわずか3割以下です(図表1)。そのように不人気な改革を、無理に推し進めるのはなぜでしょうか。

第一に、共和党支持者に限れば賛成が多いことです。第二に、減税を求める大口献金者へのアピールです。第三に、共和党議員(特に上院)には個人的に減税メリットを受ける富裕者が多いことです。第四に、「減税は善」と信じる共和党の伝統です。第五に、トランプ氏や共和党議員の単なる「意地」です。

米国の民主主義はどうなるのか?

それらは全て、理論的な根拠とはなり得ません。また、約30年ぶりの抜本改革であるにもかかわらず、反対派や慎重派との議論は全く不十分です。議論を軸とする民主主義が、危機に立っているのです。

健全な民主制の基盤は、国民相互の共感です。しかし米国では、明確に違う階層間の交流がほとんど見受けられません。同胞意識が崩壊しているのです。そのため、所得再分配の議論などは成り立ちません。そのような国をいまだに崇拝する人が日本で散見されるのは、不可解としか言いようがありません。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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