米国の感謝祭と税制改革

2017/11/29 <>

華やぐ米国 

米国は、最も華やかな時期を迎えました。感謝祭(サンクスギビングデー、今年は今月23日)の前日から年末年始まで、人々は家族や知人に感謝の思いを伝えたり、食事や買い物を楽しんだりします。

今年の米国も、一見すると、例年どおりの明るいムードに包まれているようです。感謝祭翌日からの年末商戦も、ネット通販を含めれば好調な滑り出しです。雇用や株価も、驚くほどの底堅さを保っています。米国の景気は、たしかに良いのでしょう。しかし、そのような繁栄は、永久に続くのでしょうか。

繁栄の陰で

残念ながら、それは難しいと思われます。繁栄の陰で、社会の亀裂や病理が深まる一方だからです。

例えば、ヘイトクライム(人種や宗教などの偏見に基づく暴行)の増加です。米連邦捜査局(FBI)が今月発表したデータによれば、昨年は前年比4.6%増となりました。また、凄惨な事件の頻発にもかかわらず、銃規制は一向に進みません。規制に反対する圧力団体のためです。より厄介なこととして、自分の身は銃を用いてでも自分で守るという「自由」を信奉する人が少なくない、との背景もあります。

米国の原点とは?

米国という国の原点に遡るとき、足がかりとなるのが感謝祭です。米国で最も重要なこの祝日は、初期の入植者(ピルグリムファーザーズ)の伝説に由来します。約400年前に英国から来た彼らが、幾多の苦難を乗り越え、最初の収穫を祝い、神に感謝したという、いわば建国神話です(ただし近年、宗教色は薄れています)。催された祝宴には、この新天地で生きるすべを教えてくれた先住民族も招いた、とのことです。挑戦、希望、善意、融和、感謝といった米国人の貴ぶ徳目が凝縮された、美しい物語です。

理想から遠ざかり、党派争いが常態に

そのため今年も、感謝祭にちなんだ論説が多くみられます。ただ、前向きなものばかりではありません。むしろ今年は、社会の亀裂を嘆いたり、古き良き時代への郷愁にふけったりするものが目立ちます。

たしかに米国は、かつての理想から遠ざかってしまいました。憂慮されるのは、共感や寛容の精神が失われつつあることです。そうした状況を反映した米国の政治は、もはや党派争いの舞台にすぎません。

いまトランプ政権と共和党は、税制改革を強引に推し進めています。その案に基づくと、所得税減税などによる恩恵(税引き後の所得増)は、富裕層に偏ります(図表1)。さらに、減税で財政が悪化するのは避けられません。結果、社会保障のカットなどの形で負担を強いられるのは、将来の中間層です。

税制改革の行方 

法人税減税についても、賢明とは言えません。企業の税引き後利益が増えれば設備投資や賃金が増えて皆が豊かになる、という「トリクルダウン」を信じる人は、ほとんどいません。そのように経済効果の疑わしい減税(図表2)に猛進するのは、大口献金者への配慮という「政治的な」理由もあります。

そんな税制改革案がそのまま通れば、共和党と民主党の対立や、富の格差による社会の亀裂は決定的となります。融和ではなく反目が、感謝ではなく憎悪が、米国社会を覆っていくでしょう。すなわち、先祖が掲げた気高い美徳のさらなる劣化です。したがって、この税制改革は頓挫した方がよいのです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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