トランプ氏がアジアに教えてくれたこと

2017/11/16

アジアへの旅を終えて

トランプ米大統領は、アジア歴訪を無事に終えました。日本、韓国、中国の接待攻勢、ベトナム、フィリピンの温かい歓迎は、アジア式の「おもてなし」として、トランプ氏の記憶に残ることでしょう。

もともとアジアでのトランプ氏への評価は、欧州での評価よりは悪くありません(図表1)。欧米で同氏が不人気なのは、人権や民主主義といった価値観と衝突する人物だからです。しかしアジアでは、いまだに民主主義が根づいていません。そのため、価値観の面からトランプ氏を批判する動機が、さほど強くないのです。価値観に固執したオバマ前大統領よりは好感が持てると言う人も、少なくありません。

米国に頼れるのか?

ただし米国への認識は、アジアでも確実に変わるでしょう。経済や安全保障などで米国のみに頼るのは危うい、という点を改めて印象づけたからです。今般の歴訪内容から読み取るべきは、そのことです。

昨年、トランプ氏が大統領に選ばれたとき、日本の一部では突如として幻想が膨らみました。自己主張を強める中国を、米国の新政権は厳しく制御してくれるだろう、との期待です。中国の貿易慣行、海洋進出、台湾問題などに関し、同氏らは攻撃的あるいは挑発的な発言を繰り返し行っていたからです。

露骨な対中融和路線

ところが、このたび世界が目撃したのは、中国に対するトランプ氏の極めて融和的な姿勢です。対中国の貿易赤字についても、責任は中国ではなく米国の歴代政権にある、などと同氏は言い放ちました。南シナ海問題など中国が触れられたくない問題では、相手を刺激しないよう配慮しました。日本のメディアなどが一番注目していた北朝鮮問題についても、緊迫化を招くような過激発言はありませんでした。

代わりにトランプ氏が自賛しているのは、2,500億ドル規模に上る中国との商談成立です(米国製航空機の購入など。ただ、多くは拘束力なし)。同氏の中心的な関心は、やはり商売や取引にあるようです。

価値観の強要から経済重視の関係へ

もっとも、損得勘定を基軸とするのは、必ずしも間違っていません。政治体制や価値観は、それぞれに深い事情があります。それを軽視して「西洋式」をアジアに押しつけすぎたのが、今までの欧米です。

米国が価値観外交を改める中、日本などアジアとしても、歴史認識などは脇に置いて経済重視の国際秩序を再構築すべきときが、本格的に到来したのでしょう。それを(もちろん意図せずして)教えてくれたのが、トランプ氏です。このためアジアの対米関係なども、経済中心の関係となるのが自然です。

米国が促すアジア経済圏の深化

経済を優先する以上、日本が米国同様に重視すべきは、むろん中国です。測定の仕方によってはすでに最大の経済国となったこの国(図表2)と敵対しても、良いことはありません。よって先週末の日中首脳会談は、安倍首相の言うとおり「日中関係の新たな段階」への一歩として、素直に評価されます。

世界は今、「米国第一主義」に身構えています。そうした中でドイツやフランスは、ユーロ圏の結束を固めようと決意を新たにしています。同じ理由で、日本を含むアジアの国々も、相互の関係改善が急務となりました。すなわちトランプ大統領の誕生は、「アジア経済圏の深化」を促す転機だったのでしょう。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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