ナショナリズムの敗北
喜ぶべき潮流
今年の株式市場は、前半に軒並み上昇した後(図表1)、最近は慎重なムードが感じられます。日本では経済政策への幻想がほぼ消滅し、行き詰まり感が漂っています。しかし、それほど悲観視する必要はないでしょう。むしろ最近の世界では、金融市場がもっと喜んでよい潮流が鮮明になっているからです。
すなわち、先進各国におけるナショナリズム(国粋主義)の後退です。ナショナリズムは通常、反グローバリズムとセットになります。経済成長という視点に立つ限り、良いことはほとんどありません。
過大評価だった「極右の脅威」
ナショナリズムと反グローバリズムは、今年春頃まで、世界経済を襲う大きな津波になりかねないと思われました。「米国第一」を叫ぶトランプ政権が誕生し、欧州でも極右勢力が台頭していたからです。
しかしそういったリスクは、やや過大評価されていたようです。3月のオランダ総選挙では、極右「自由党」の議席が予想を下回りました。5月のフランス大統領選では、極右のルペン氏が中道系のマクロン氏に大敗しました。日本でも、自国を礼賛し他国を中傷する言説は、さすがに飽きられてきました。
米国ナショナリズムも敗北
ナショナリズムの世界的流行は後退しました。これを明確に示すのが、トランプ政権の混乱です。
先週末、「影の大統領」とも言われた首席戦略官、スティーブ・バノン氏がついに失脚しました。バノン氏は、まさにナショナリズムと反グローバリズムを象徴する、思想的支柱でした。この人物が政権内で孤立し、退任を余儀なくされたのです。結果、トランプ政権も少しは正常化へ向かうかもしれません。
ナショナリズムを使って国をまとめようという企ては、結局失敗する定めなのでしょう。特に米国は、極右による最近の騒乱が表すとおり、排外主義を厳しく拒絶します(図表2)。また、グローバル化のもとで自国と他国を公平に観察できる現代人に「自民族の優位性」を訴えても、説得力を持ち得ません。
バノン氏を全否定すべきか?
バノン氏は、政敵を「グローバリスト」と呼んで軽蔑します。しかし、反グローバリズムや孤立主義が成功する見込みは、最初からほとんどありませんでした。他国との物的・人的交流は、利益への欲求だけでなく、冒険心や探究心に根差しています。そうした本能を、権力で抑え込むことはできません。
ただ、反グローバリズムや反エスタブリッシュメントといったバノン氏の立場は、約9年前の金融危機時に感じた憤りが原点となっています(本人の話が嘘でなければ)。そのとき多数の米国民(同氏の父親も含め)が損失を被った一方、大企業は救済され、政治家は責任を取らなかった、という憤りです。
米国の正常化とは
こうした認識に立つバノン氏のポピュリズム(大衆迎合主義あるいは人民主義)は、完全に否定すべきものではありません。しかしバノン氏の失脚などによりトランプ政権が正常化へ向かうとすれば、同氏が捉えた問題の本質から目を背け、共和党の伝統的な政策へ回帰するということを意味します。同党が得意とする企業や富裕層への減税策も、現実味を帯びるでしょう。むろん、金融市場の好材料です。
ナショナリズムの敗北は、間違いなく良いことです。ただし、バノン、トランプという「劇薬」でも、米国のエスタブリッシュメントは全く動じませんでした。それをどう評価するかは、別の問題です。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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