ブレグジットで欧州統合はどうなるのか?

2017/07/27 <>

移民と国家主権

ブレグジット(英国の欧州連合(EU)離脱)の行方については、確実なことは何も言えません。

英国・EU間の交渉期限は2019年3月ですが、それまでに全部決めるのは困難です。よって移行期間(3年程度か?)を設けた上、新たな通商協定に向けた交渉を継続、というのがありそうなシナリオです。当事者以外は気長に見守るしかありませんが、金融市場もそうした現実にやっと慣れてきました。

ブレグジット自体が撤回される可能性(EU残留)もありますが、あまり期待すべきではありません。実際、英国民の7割は、すでにそれ自体を受け入れています。真の主権国としてEUから独立し、特に移民を制限しよう、といった離脱派の言い分にも、もっともらしさが感じられるからでしょう。

移民問題をどう考えるか?

移民・難民問題に向き合う必要性は、欧州へ行くと強く感じさせられます。あまりに多くの民族・人種が混在することで、その国らしさが損なわれてしまう、という懸念も、理解できなくはありません。

とはいえ、国柄を守るには他民族を排除すべき、と考えるのは、誤りです。ロンドンやパリなどの場合、多文化の共存こそが文化そのものだからです。それが魅力であり、経済活力の源泉です。

加えて欧米には、ほかの国や大陸から大勢の人を(ときには強制的に)移住させたという負の歴史があります。安価な報酬で働いてもらうためです。それを今度は拒絶するというのでは、さすがに身勝手です。つまり文化、経済、歴史のいずれの面からも、移民排斥を完全に正当化することはできません。

国家という恣意的なもの

国の「主権」や「独立」についても、難問です。日本では気づきにくいのですが、国家とは自明の存在ではないからです。多くの国境は戦争や取引の結果、恣意的に引かれ、民族は複雑に入り混じっています。また、欧州などが今の姿になったのは比較的最近です(たとえばイタリアの国家統一は1861年)。

欧州国内でも、たとえばパリと地方都市では、政治傾向が相当異なります。5月の大統領選では、パリでマクロン氏が圧勝した(決選投票での得票率は約9割)一方、保守的な地方では、極右・ルペン氏も健闘しました。要するに国の同一性など幻想に近いのだとすれば、より高次の観点から国家至上主義を見直すべきです。そして平和の希求という高い理念から生まれたのが、欧州統合の構想です。

ブレグジットは、欧州統合にとってむしろ良いこと

欧州の歴史は、戦争の連続です。多数の国がひしめき合っているのが一因でしょう(EU28か国の総面積は米国や中国の半分以下)。二度の世界大戦も、欧州内の自国中心主義が発端です。その反省に立つ欧州統合の構想は、主要国間の戦争が最近は起こっていないという事実だけでも、成功と評価できます。

ただし、欧州大陸とは海で隔てられた英国の場合、EUに残留するのが良い、とは断定できません。何より、もし英国がブレグジットを撤回したとしても、近い将来にポンドからユーロへ通貨を切り替えるとは考えられません。しかし、通貨や金融政策すら統合できないようでは、財政や政治の統合など、うまくいきません。つまり英国がEUに残る限り、欧州統合の妨げとなる可能性が高いのです。したがってブレグジットは、英国には大きな試練ですが、EUや世界にとっては悪いことでないと言えます。

 

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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